「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

勝っているが、あえて布陣や選手を変える [J4節柏戦プレビュー] 藤井雅彦 -2,547文字-

別項でも触れるが、どうやら小林祐三は柏レイソル戦に間に合いそうだ。清水戦でねん挫した右足首は万全の状態ではないが、木曜日以降は練習もこなしている。用意周到なエリク・モンバエルツ監督は週の前半、三門雄大を右SBにスライドさせた布陣で練習を行っていたが、どうやら最終ラインとダブルボランチは公式戦2連勝時のままで柏戦に臨むことができそうである。有事に備え、天野貴史がリーグ戦では今シーズン初めてベンチ入りする。

4-3-2-1_2015 変化があるのは、むしろ前線の顔ぶれだ。小林の案件とは違い、こちらは能動的なメンバー変更が濃厚である。2連勝の布陣は1トップに齋藤学、少し下がった位置にアデミウソン、左MF兵藤慎剛、右MF藤本淳吾という4人だった。アデミウソンの位置に関しては彼の役回りによって変化するように見えるが、少なくとも純然たる2トップという雰囲気ではない。1トップより少し下がった位置から自由に動くという役目だった。

勝っているが、あえて布陣や選手を変える。柏戦では1トップにアデミウソンが入り、齋藤は左MFへ。兵藤は右MFに配置転換し、トップ下には喜田拓也が抜てきされるだろう。当然、藤本の居場所がなくなり、彼はベンチスタート濃厚だ。この2試合、チームは連勝を飾ったが、藤本自身のパフォーマンスは冴えなかった。ボールタッチそのものが少なく、消化不良に終わった。これは彼自身だけでなく周囲との兼ね合いの問題も大きいが、ひとまずベンチでキックオフを迎える。

 

下バナー

 

宮崎キャンプからお伝えしてきたとおり、フランス人指揮官は喜田のことをとても気に入っている。どんな監督にも選手に対しての好みがあり、喜田は『好き』に分類されるのだろう。今週に入ってからも喜田について「アグレッシブに戦える選手の一人」と絶賛していた。もはやポジションに関係なく、どの位置でも発揮できる背番号28のアビリティーである。もしかしたら、それと対照的なのが藤本かもしれない。

柏4-1-4-1 問題はトップ下としての適性だが、おそらくオフェンスに関して大きな期待はできない。ご存じのとおりマリノスの育成組織で育ち、年代別代表にも選ばれてきた選手である。小学校時代はFWに始まり、CBも務めていたようだが、ジュニアユースとユースの6年間はいつも中盤の底、つまりボランチだった。仮に、彼がトップ下として点を取り続けるなど開眼するようなことがあれば、育成組織の指導者は何かしら考えるべきだろう。育成組織時代から前目のポジションで点を取らせるべきだった、と。

とはいえプロはそんなに甘いものではないし、マリノスの指導者たちに間違いがあったとも思わない。喜田はおそらくボランチの選手で間違いない。二度追いできるボール奪取能力とそこから攻撃に転じる切り替えのスピードが特長で、粘り強さや献身性といった単語がよく似合う。派手さや、あるいは主役といった類の表現は似合わない。黒子であり続けるとともに、縁の下の力持ちとしてチームを支えるのがよく似合う。

その選手にトップ下として期待するのは、高い位置からの守備である。モンバエルツ監督は柏の中盤について以下のように話している。

「相手の中盤の選手たちは流動的にポジションを変えてくる。技術があって、頭も良い。プレッシャーを感じずにプレーしている。中盤の3人のうちの一人は出場停止で試合に出られない。ただ、彼らはほかの選手がそこに入っても同じようにプレーしてくるだろう。自分たちは、とにかく下がるなと話している。相手はサイドの選手も中央に入ってくるので、中をどう固めるかがポイントになる」

たどり着いた結論は、喜田をトップ下で起用する策だ。藤本でも佐藤優平でも、あるいは伊藤翔を1トップに置いてアデミウソンを下がった位置で起用するでもない。喜田を高い位置から守備させる一手である。この起用法と同時に、今週は全体のブロックを高い位置に設定し、相手の中盤にプレッシャーをかけていく指示を与えた。監督交代によってボールポゼッションを志向する相手に制限をかける考えである。

勝っているチームをあえて動かすのは勇気がいる。それなのに指揮官は「相手は素晴らしいチームだが、ウチのチームも良いチームという自信がある。そういったチームにチャレンジしていくことが必要で、そのワクワク感がある。今週はとても良い準備ができたので、良いチーム相手にどんなチャレンジをできるか楽しみ」と笑みを絶やさない。

これで守備が抜群に機能し、さらに喜田が点を取って勝つようなら、もう名将の仲間入りだ。現場を見続けてきた筆者とはいえ、ぐうの音も出ない。楽しみな一戦は、明日19時にキックオフする。
【この試合のキーマン】
DF 13 小林 祐三

 ナビスコカップ・清水戦の後半に右足首をねん挫し、そのまま途中交代を余儀なくされた。今週に入ってからも別メニュースタートだったため、明日のゲームに出場するのは難しいかと思われた。負傷している選手の起用に消極的な指揮官の考え方も踏まえて、次節以降に向けて準備するという見方が大半を占めていた。

 しかし、木曜日の練習から時間を制限しながらとはいえ部分合流できた。メンバーを分けるトレーニングでは主力組に入り、問題なくプレーできることを示した。万全とはいえない状態だが、とりあえず試合出場が可能な状況を作り出し、遠征メンバーにも入っている。

 公式戦2連勝は、やはり連続無失点の守備での頑張りが大きい。そんないま抜群の守備力を誇る小林を欠くとしたら、大きな痛手になるところだった。ボランチで存在感を示している三門を右SBにスライドさせるのももったいなかった。強行出場だとしても、古巣相手にアドレナリンが出れば大丈夫だろう。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ