「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中村俊輔をトップ下に戻す一手も、苦しい状況を打開する有効策になりえなかった [2nd5節清水戦レビュー] 藤井雅彦 -1462文字-

 

4-3-2-1_2015中村俊輔をトップ下に戻す一手も、苦しい状況を打開する有効策になりえなかった。これまでのボランチ起用から一列ポジションを上げたことでボールタッチ回数が減るのは予想できたこと。その状況でも中村は「彼は下がってはいけない」というエリク・モンバエルツ監督の言いつけを守り、前線でボールが来るのを我慢した。こちらも想定内だ。

しかし、齋藤学の素晴らしいゴールをきっかけに様相は一変した。中村は自らの意思で下がったポジションを取り、兵藤慎剛と入れ替わるようにプレーエリアを低くした。そのポジションチェンジが“阿吽の呼吸”で行われているのならまだしも、突然のアドリブに兵藤もトップ下としてタスクをこなせたとは言い難い。彼らとともに中盤中央でトライアングルを形成した三門雄大のみ、試合序盤と同じように前を意識したプレーを見せたが、一人で効果的なプレーを見せるのは難しかった。

 

https://www.youtube.com/watch?v=tKNlmCgMuPs#t=0m34s

 

後半に入るとチーム全体の足が止まったこともあり、ボールホルダーへのプレッシャーが緩慢になる。モンバエルツ監督は「後半 は前からプレッシャーに行こうとしたが、守備が全体的に下がってしまった」と首を傾げた。それは中村のポジショニングやパフォーマンスと無関係ではなく、 チームの先頭に位置するアデミウソンと中村が相手の攻撃方向を限定しなければ、中盤と最終ラインは強度を保てない。

その上での2失点である。いまのマリノスは以前ほどの耐久力を要していない。それは37歳になった中澤佑二の衰えなどという安直なものではなく、11人の プレーレベルの問題が大きい。中澤とコンビを組むファビオは彼にしかできない守り方をする反面、重要なミスを犯す場面もある。左SB下平匠は対面した村田 和哉に蹂躙されたように、守りに秀でた選手ではない。また、ダブルボランチも以前なら富澤清太郎のような危機管理能力に長けた選手がいたが、いまは機動力 やポゼッションを意識した面々で構成されている。以前、小林祐三はリードしている際の逃げ切り策を「籠城作戦」と表現したが、いまのメンバー構成では脆さ が顔をのぞかせてしまう。

 

下バナー

 

清水4-2-3-1だからこそ、いまのマリノスは前線からの守備が欠かせず、その中で中村は重要な役割を果たすはずだった。トップ下として華麗なプレーを見せること以上に、守備でチームを方向付けしなければならなかった。リードしたことで少しポジションを下げたとすれば、指揮官がそれをコントロールすべきであろう。ピッチ内の誰が言うよりも監督が指示するほうが効果的なはず。清水エスパルスの勢いに気圧されるチームを、ただ見ているだけではいけなかった。

新たな試みに出た上での敗戦ならば、本来はそこから得るものもあるはず。トライ&エラーを繰り返してブラッシュアップしていくのなら、この黒星も前向きに捉えられるかもしれない。しかし、チームの方向性がまったく見えない中でのあまりにも惨めな敗北は、ゴール裏サポーターのブーイングを誘うだけだ。9試合未勝利という結果以上に、次なる一歩がまったく想像できないことが問題なのである。

 

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ