「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

まるでW杯やEUROの準々決勝あたりでイタリアとフランスが負けないサッカーを優先するような光景 [2nd11節東京戦プレビュー] 藤井雅彦 -2,115文字- <無料>

 

FC東京との前回対戦は1stステージ第2節のこと。開幕戦で川崎フロンターレに惨敗し、加入したアデミウソンが合流して初先発。試合は拮抗した展開で互いに決め手を欠き、スコアレスドローに終わった。FC東京はイタリア人監督、マリノスはフランス人監督がチームを率いていたせいもあるが、まるでW杯やEUROの準々決勝あたりでイタリアとフランスが負けないサッカーを優先するような光景だった。

4-3-2-1_2015 明日の試合もそんな展開になる可能性が高い。エリク・モンバエルツ監督が「よりミスを少なくしたチームが勝つことになるだろう」と言えば、ボランチの喜田拓也は「手堅い試合になると思う」と想像する。どちらも攻撃の駒がいないわけではないが、リスキーな展開は絶対に好まない。特にFC東京はそういった考え方で戦い、現在の年間3位という順位につけている。

その相手を崩すためには、もしかしたらこれまでとは違う発想が必要かもしれない。これまで、つまり前回対戦時や昨季以前だが、マリノスはやはり守備に軸足を置いたチームであった。良い守備ありき、少ない失点ありきのチームである。何も悪くなく、むしろ強みだ。そのうえでセットプレーや少ない決定機をゴールに結びつけて、勝つ。勝利の方程式とでも言おうか。

ただ、最近は少しずつスタイルが変わってきたように思う。モンバエルツ監督の指導により、中盤はインテンシティやハードワーク、素早い攻守の切り替えを体現できる選手が重宝されるようになった。これまで何度も述べてきたように、その象徴が喜田であり三門雄大だ。それは間違いないのだが、かといって彼らのパフォーマンスが勝敗を決定的に分けるというわけでもない。

気がつけば前線には齋藤学とアデミウソンが両サイドに配されている。中村俊輔曰く「槍が2本あると相手は下がる」。タイプこそ異なる2本の槍だが、いずれも個人でボールを運び、相手を危険に晒し、ゴールを狙える。複数のDFを引きつけ、周囲に時間とペースを提供できる。過去数年、その役割を担うのが齋藤ただひとりだったが、アデミウソンがそれを実行することで、ほかならぬ齋藤のゴール数が増え始めたのは見逃せない事実だ。齋藤自身、「右ではアデ(アデミウソン)が勝手にやってくれるので」と分析している。

東京4-3-1-2 引き分けに終わった前節のアルビレックス新潟戦では、78分から大卒ルーキーの仲川輝人もデビューを果たした。厳密には齋藤やアデミウソンと違う性質を持つが、個でボールを持てるという項目は仲川も所持している。伊藤翔の周囲を3人の運び屋が衛星のように動き回る様子は、筆者がマリノスを担当してから初めて見る光景だった。ボールを持てる選手が少なく、パスでボールを手放す選手が多かった。狙いか偶然かは別として、チームの性質が変わりつつある。

前の選手がボールを持てるなら、中盤は技術よりも走力が必要になる。パスの精度やテクニックよりも、とにかく動いてパスコースを増やす動きが必要になるからだ。前でボールが持てるから、最終ラインは勇気を持ってラインを押し上げられる。齋藤やアデミウソン、あるいは仲川が作り出す、ほんの2~3秒が試合展開とマリノスそのものを大きく変える。

新潟戦で連勝こそ止まったが、チーム状態が悪いわけではない。さらにベンチには兵藤慎剛も復帰し、途中交代の駒は増えた。あとはいまのチーム性質通り、攻撃で主導権を握れるか否か。それができなければ、第2節のような拮抗した、ちょっと退屈なゲームになるだろう。いまのマリノスは打ち合いになったほうがおそらく強い。そんな展開も悪くないではないか。

 
【この試合のキーマン】
FW 39 アデミウソン

 右サイドだけにとどまらない幅広い動きで相手を困惑させる。ポジションに関係なく高い攻撃性能を発揮し、前節のようなワールドクラスのシュートもある。ここまでチームトップの7ゴールを記録し、残り7試合で得点数を二桁に乗せる可能性は高い。
今節は対面に太田宏介がいる。左足から繰り出すクロス精度はリーグ随一だろう。セットプレーも含めて、その左足から幾度となくゴールを演出している。フリーでクロスを上げさせたらマリノスは危険に晒される。この試合では攻撃だけでなく守備での貢献も求められることになりそうだ。
あるいはオフェンスで先手を奪うという手段も有効だ。純然たる1対1の勝負ならば、アデミウソンは高い確率で太田を突破できる。カバーに走ってくるであろう丸山祐市をサイドに吊り出せればこちらのもの。ゴール前で伊藤翔や齋藤学に決定機を提供できる。

 

 

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