「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

73分16秒からの再開試合はいろいろな意味で特殊だった [天皇杯再開戦)MIOびわこ滋賀戦レビュー] 藤井雅彦-1,162文字-

73分16秒からの再開試合はいろいろな意味で特殊だった。

まず、プレビューでも解説したように日産スタジアムは芝生の養生期間のためウォーミングアップでピッチを使用できなかった。この状況にチームは普段のウォーミングアップルーム(人工芝)に加えて陸上競技で使用されるタータントラック(陸上競技用の合成ゴムを固めたものを敷いた走路)のアップルームを使用。フィールドプレーヤーはそこで短い距離のダッシュを繰り返し、体を温めていた。

4-3-2-1_2015 そういった状況下だけにメンタルを試合に向けて上げていくのもおそらく難しかっただろう。そしてスタジアムがニッパツ三ツ沢球技場ならばそれほど目立たない空席も、7万人を収容できる大箱ではさすがに空席ばかりだった。入場時こそ通常と変わらないが、試合をスタートする際にはMIOびわこ滋賀のゴールキックにボールがセットされる。止まっていた時計の針が動き出した瞬間だった。

しかし試合が始まればマリノスは普段となんら変わらないパフォーマンスを見せてくれた。この日の午前中は暗雲漂う雨天だったが、試合が始まる頃には曇まで回復し、試合に影響を与えることはなかった。残り17分程度で得点すれば勝利に大きく近づき、失点すればかなり苦しくなる。したがって派手に攻めに出るのは難しかったが、延長戦に入ることも織り込み済みだったように思う。

延長戦に入ってからは地力の差を見せつけた。アデミウソンは個の力でJFLチームをきりきり舞いさせ、伊藤翔はストライカーらしいゴールを決めた。試合前や同点の状況ではジャイアントキリングの可能性がある大会だが、一度リードを奪えば格上チームが圧倒的に有利なのも天皇杯の特徴である。リードして余裕を持ったJ1チームを相手にJFLチームがゴールを奪うのは至難の業だった。

 

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世間的には平穏無事に終わったことが退屈だったかもしれないが、マリノスにとってはもちろん重要な勝利である。リーグ戦の成績に目を向けると、年間順位で3位以内に入るのは絶望的で、2ndステージもかなり苦しい状況だ。そんな中、天皇杯で頂点に立てば無条件でACL出場権を獲得できる。3回戦の大分トリニータ戦、4回戦、そして準々決勝、準決勝、決勝とあと5回勝てばアジアだ。簡単ではないが、いまのチーム状態なら可能性はなくはない。

その重要な一歩目が73分16秒からのこのゲームだった。GK飯倉大樹は試合前も試合後も同じ言葉を繰り返した。「天皇杯は勝ち上がることがすべて」。普段と違う特殊な状況でもマリノスはマリノスだった。それこそが最大の勝因であろう。

 

 

 

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