「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

まさしく堅牢。マリノスは90分間ゴールに鍵をかけ続け、一度も施錠を解くことをしなかった [2nd15節川崎戦レビュー] 藤井雅彦 -1,529文字-

 

まさしく堅牢であった。マリノスは90分間ゴールに鍵をかけ続け、一度も施錠を解くことをしなかった。

4-3-2-1_2015 試合終盤の時間帯だけならともかく、試合開始と同時にゴール前で守る戦い方は、リスクも伴う。あれだけ低い位置で守備をすれば相手ゴールは必然的に遠くなり、カウンターで出るにもエネルギーを消費する。単純にスプリントの距離が長くなるからである。開幕戦がそうだったように早い時間帯に失点すれば、それから勝ち点3を得るのは至難の業。失点しないことを前提とした戦い方であり、それを完遂させるのはとても難しい作業なのだ。

それをほぼ即興でできてしまうところがマリノスの強さであり、アイデンティティかもしれない。練習からこのような状況を想定していたわけではなく、むしろもう少し守備のゾーンを高くしてボールを奪いに行きたかったはず。だが、蓋を開けてみればフロンターレが攻撃に人数を割き、対してマリノスは守勢に回らざるをえなかった。だから割り切って守ったということ。指揮官の狙い通りのサッカーというわけではない。

全体のラインを下げ、ゴール前への侵入だけは絶対に許さない。バイタルエリアを使われても前を向かせない。ペナルティエリアの両サイドのスペースに侵入されても慌てず対処し、サイドに押し返す。ゴール前にボールを入れられても人数をかけてはね返す。それを丹念に繰り返し、時間経過を待つ。

この戦法を成功させるには、鋭利なカウンターか精度の高いセットプレーが必要不可欠。つまり蜂の一刺しである。アデミウソンや齋藤学、あるいは伊藤翔は守備で頑張りつつカウンターでチャンスをうかがった。しかし最後の場面でエネルギー不足になってしまう。これは仕方ない面もあるだろう。「前の4人の守備意識が高かった」と中澤佑二が称賛したように、彼らの頑張り抜きに失点ゼロはありえなかった。

 

 

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川崎3-4-3 ならばセットプレーしかない。中村俊輔を起点とするFKに飛び込んだのはファビオで、決して簡単ではないシュートを見事に決めた。この試合の中村のプレーに触れると、主な役割はやはり守備で、時間帯によってはボランチの位置で守る場面もあった。マイボール時には巧みなキープで時間を作り、全体の押し上げを促す。どちらかといえば地味な役割で、決定的な仕事に絡むとしたらセットプレーしかなかった。そして実演してみせた。

終始ボールを持っていたのはフロンターレで、マリノスは実に渋いサッカーを展開。圧倒的な強さではなく、試合展開と戦い方の妙で勝ち点3を奪い取った。いろいろな見方、意見が分かれるゲームだったと思うが、筆者からするとこれもサッカーである。スタイルや志、あるいは方向性はとても大切なこと。だがしかし、公式戦とは何に主眼を置くべき場なのか。そこに立ち戻って考えるべきだろう。

フロンターレは技術に優れ、娯楽性が高いサッカーを展開する。この点については開幕戦同様に認めなければいけない。それでも今回はマリノスが勝ったのが事実。スタイルを競うのではなく、勝敗を争った末の結果だ。横浜F・マリノスこそが、この日の勝者である。

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