「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

モンバエルツ監督の采配は、それまでのナビスコ3試合とはやや趣が異なるものだった [ナビスコ5節福岡戦レビュー] <無料>

伊藤翔の決勝ゴールは「ワールドクラスだった」(榎本哲也)。浮き球に対してDFを背負ってブロックしたプレーはファウルぎりぎり。そして、その後のバウンドボールを振り向きざまにニアハイへ蹴り込む一連の動作は、簡単にはできない。ストライカーとしての感覚だけが成せる業であり、相手GKにとってはノーチャンスだ。そのプレーを試合終了間際のアディショナルタイムに繰り出すのだから、恐れ入った。

ただし試合展開としては、それまでに勝ち越しゴールを奪わなければいけないゲームだったかもしれない。80分、仲川輝人が齋藤学のスルーパスに抜け出して右足を振り抜く。88分には右SBにスライドした三門雄大のグラウンダークロスが相手DFに当たってコースが変わり、そこに待っていたのはカイケだ。いずれもゴールネットが揺れてもいい場面だったが、アビスパ福岡のGK神山竜一は“当たっていた”。

神がかり的なセーブを連発する神山からゴールを奪うとしたら、兵藤慎剛が決めたPKか、あるいは伊藤のようなスーパーゴールしかなかった。この日挙げた2得点の形は、もしかしたら必然だったのかもしれない。惜しいシュートでは決めることのできない難敵だったといえる。

それにしても、この試合におけるエリク・モンバエルツ監督の采配は、それまでに消化したナビスコカップ3試合とはやや趣が異なるものだった。前提として、代表招集とけが人が合わせて7選手いたため、メンバー総入れ替えを実施できなかった。栗原勇蔵と小林祐三は21日のヴィッセル神戸戦にも先発する選手で、彼らの代わりはいなかった。結果的に小林は55分まで出場し、栗原は63分で交代し、パク・ジョンスとプレータイムを分け合った。

 

違いはほかにもある。小林の交代は予定通りだったが、ピッチに登場したのは主力中の主力である齋藤学。これは週末のリーグ戦を見据えると同時に、この試合での逆転勝利を目指した人選にほかならない。齋藤は定位置である左MFに入り、仲川がトップ下へ、中島賢星がボランチに下がり、ボランチの三門は鋭いクロスを期待された右SBへ移った。たった1枚の交代でチームの性質は大きく変わり、攻撃的に出るというメッセージが伝わってくる采配であった。

 栗原とパク・ジョンスの交代は前記したようにほぼ予定通りだったが、3枚目の交代はまたしても強い意志が込められていた。足をつった兵藤慎剛に代わって入ったのはストライカーの伊藤で、この交代によって天野がボランチに下がり、前線は伊藤とカイケの2トップとなった。天野と中島のダブルボランチはマリノスで二度と見られないかもしれないほど希少価値が高い。そして戦前に指揮官が「アカデミー選手も途中から出るかもしれない」と示唆していた二種登録選手の起用は見送られた。

ゴールと勝利への意思は、伊藤のスーパーゴールとして結実した。Bチームで臨んでいるナビスコカップでの予選リーグ突破に大きく前進する、貴重な勝ち点3を手にした。

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ