「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

お膳立てしたのは、リーグ戦で出場機会に恵まれない選手たちだった [ナビスコ7節仙台戦レビュー]

 

試合結果そのものは勝つか、負けるか、あるいは引き分けかの3パターンが考えられた。しかしナビスコカップのグループステージという観点では、勝ち上がりか敗退、の2パターンのみの戦いである。したがって肝要なのは、勝ち上がるために何をするかという視点となる。リーグ最終節で引き分けても優勝が決まる状況なら、引き分けは是だろう。それと同じことだ。

 とはいえ、序盤からあえてベガルタ仙台にボールを持たせていたというのは言い過ぎだ。仙台の出足は鋭く、ボールを持ってからはアグレッシブに枚数をかけて攻めてきた。対して下平匠を負傷で欠いたマリノスはビルドアップの精度がお世辞にも高くなかった。マイボールになっても相手のプレッシングの餌食となり、仙台ボールの時間が長かった。結果としてマリノスは押し込まれた。

それでも焦らず、じっくり構えることができる。最終ライン中央を固める中澤佑二と栗原勇蔵、そして榎本哲也の3選手を中心に、仙台の攻撃を受け流していく。ピンチらしいピンチは三田啓貴のミドルシュートくらいか。それも榎本が体勢を崩しながらしっかり弾き出した。

チームが慌てず守備に注力できたもう一つの理由は、カウンターからチャンスを作れていた点にある。普段よりも守備に軸足を置いていたボランチの中町公祐は「嫌らしい場所にボールを入れられる場面や、ボールの取りどころがないという感覚はなかった。カウンターは23人で攻める形ができている」。カウンターの急先鋒となったのが遠藤渓太で、少ない人数でもフィニッシュまで持ち込む形ができていたからこそ、守備に人数を割いて守ることができた。

ようやく生まれたゴールも、カウンターだった。バウンドボールにいち早く触った伊藤翔を追い越してランニングしたのは37歳の中村俊輔だった。さすがにそのままスピードでぶっちぎることはできなかったが、一度ボールを持ち替えてドリブル突破を図ってPK獲得。少人数での鋭利なカウンターは、背番号10の頑張りによって完結した。

 

 

下バナー

 

後半も構図は変わらず、相変わらず押し込まれる時間が長かったが、またしてもカウンターが炸裂する。ハーフウェーライン付近でバウンドボールに体を入れて前を向いた伊藤のスルーパスに齋藤学が反応。左足で冷静に流し込んで貴重な追加点を手にした。2点をリードしてからはパク・ジョンスと喜田拓也のダブルボランチを試し、新井一耀が足をつるアクシデントによってファビオを左SBで起用することもできた。

 終わってみれば2-0で完勝し、グループステージを首位で突破した。ここまでの6試合にはフィールドプレーヤー全員が出場し、まさに「チーム全体で予選を戦ってきた」(中町)証と言えよう。仙台戦こそリーグ戦の主力メンバーがピッチに立ったが、それをお膳立てしたのはリーグ戦で出場機会に恵まれない選手たちだった。この日はベンチに入れなかったが兵藤慎剛や天野純、仲川輝人の頑張りなくしてノックアウトステージ進出は実現できなかった。

これまで幾度となく述べてきたように、ナビスコカップにおける当初の目的は必ずしもグループステージ突破ではなかった。週末のリーグ戦と天秤にかけたとき、そちらに比重が置かれていたことは明白。表向きにそう言えないのはプロとして当たり前のことで、選手の起用法や采配を見れば明らかだった。あくまで選手にプレー機会を与える場でしかなかった。

エリク・モンバエルツ監督が本当の意味で勝ちに行ったのは仙台戦だけだったかもしれない。しかし、その舞台を用意したのは選手たちだった。前出選手たちが仙台戦のメンバー18人に入れなかったのは残念だが、指揮官の采配を変えたのは紛れもなく彼らである。この事実が色褪せることはなく、チームはタイトル獲得に向けて歩みをスタートさせた。

 

 

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ