「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

結果は出ている。システムを戻す理由やメンバーを大きく変更する理由など、どこにもない [2nd2節福岡戦レビュー]

 

この試合最大の歓声に包まれたのは、背番号10が途中出場する瞬間だったのではないだろうか。サッカーや、あるいはマリノスを知らなくても、中村俊輔の名前を知っている人は多い。ライト層に絶大な知名度を誇り、コア層からは絶対的な支持を受けるスタープレーヤーである。その選手がメンバー入りしているのに先発していない。事情を知らない人からすれば、何かアクシデントや問題があったのかと勘繰るだろう。

しかし、実際は何もない。両足首痛は完治したわけではないが、もともと慢性的な痛みである。今後も完治することはないだろう。そして試合当週はフルメニューをこなした。試合2日前から全体練習に合流したマルティノスと富樫敬真が先発するのだから、中村が先発できない理由にはならない。

 しいて理由を挙げるならば、湘南ベルマーレに3-0で完勝した[4-4-2]とメンバーを踏襲したということ。良い形で勝ったから継続、という采配はサッカーにおいて定石通りといえる。いくら中村でも、そこに付け入る隙はなかった。ただし、その理屈ならば、次節も先発出場の可能性は限りなくゼロに近い。この試合でも3-0で勝利したのだから。

アビスパ福岡戦のパフォーマンスが抜群に良かったとは思わない。それは各選手のコメントを見ていただければ分かるはずだ。それでも湘南戦からの上積みは確かに感じられた。オーソドックスな[4-4-2]は個々の役割が明瞭化され、シンプルなサッカーを展開できる。そこに齋藤学やマルティノスのような個人技が加わり、ゴール前の厚みが増したことでFW陣にゴールが生まれる。目に見える好循環だ。

 

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課題は多い。先制点を奪えなければチームはたちまち落ち着きを失う可能性は否定できず、追いかける展開でも同じように得点力を発揮できるのか。ポゼッションの率や精度に関しても中村を起用した[4-2-3-1]のほうが上だ。何よりも福岡戦でのセットプレーの精度の低さは絶望的だった。接戦を勝ち切るリスタートの可能性を自ら放棄するのは、勝ち点3を目指すのならば得策とは言えない。

とはいえ結果が出た以上は継続路線を歩むべきだろう。「勝ち続けながら内容を良くしていきたい」という齋藤の言葉は的を射ている。トライ&エラーを繰り返しながらチームをブラッシュアップしていけばいい。結果を度外視するわけにはいかないが、いまのところは結果が出ている。システムを戻す理由やメンバーを大きく変更する理由など、どこにもない。

 このシステムで生きる選手は間違いなくいる。これまで1トップを務めてきたカイケや伊藤翔、そして富樫はいずれも2トップタイプだ。仲川輝人を前線で起用する策も浮上する。サイドMFは現在のところ齋藤とマルティノスが主力だが、[4-2-3-1]よりもインサイドに入ってプレーできる可能性が生まれる。ならば兵藤慎剛や天野純にチャンスがあってもいいだろう。

難しいのはトップ下を主戦場とする中村の扱いだ。福岡戦で途中出場した中村は高い位置を意識してプレーしたが、本来のリズムとテンポではなかった。フリーポジションを与えることで良さが出るタイプで、かといってサイドMFやボランチでの起用はあくまで条件付きとなる。

勝てば勝つほどチームの運営は難しくなる。そんなジレンマとともにマリノスは歩みを進めなければならない。

 

 

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