「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

喜田にとっては、この出来事が大きな糧となるだろう [2nd8節大宮戦レビュー]

 

前半45分間の内容は決して悪くなかった。エンターテインメント性には欠けたが、年間34試合あればこのような展開もあるだろう。「序盤から相手にしっかり圧力をかけて、大きなピンチもなかった。かといって気を抜くような試合展開でもなく、0-0のまま試合が推移した」。中町公祐の言葉通りで、むしろ最近のマリノスは序盤から両ゴール前を行ったり来たりの試合が多過ぎた。

 月並みだが、後半に入ってからのチャンスを決め切れなかったことが、結果的に大きく影を落とした。天野純、マルティノス、そしてファビオ。彼らはことごとく決定機を逸してしまい、何度もチャンスを作った齋藤学でさえ決定的な仕事はできなかった。攻め続けながらもゴールを決められない展開で、いつの間にか相手に主導権を渡してしまう。もっとも失点場面は誰を責めるわけでもなく、得点者を褒めるべきだ。

失点直後、喜田拓也の退場という予期せぬ事態が起きる。この場面、家長昭博にボールを奪われるきっかけを作ったのは喜田自身で、瞬間的にユニフォームをつかんでしまった。抜け出されていたら、相手のクオリティを考えたときに失点は免れなかっただろう。警告ではなく一発退場のプレーを褒めることはできないが、ここで2点差になっていたら勝ち点1獲得はかなり厳しくなったはず。

ユース出身の先輩であるGK榎本哲也は「キー坊(喜田)のプレーは、逆に自分たちに力を与えたと思う。10人になって吹っ切れた部分もあるし、本人は落ち込んでいたけど、あのプレーがあったからこその引き分け」と後輩をかばった。レッドカードを提示され、潔くピッチから退き、最後に一礼してユニフォームを脱ぐ姿はとても清々しかった。彼にとってはプロ人生初めての退場だが、この出来事が大きな糧となるだろう。

 

 

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 それでも、この試合は勝ち点1では足りなかった。上位進出を狙うならば勝ち点3が必須で、首位・浦和レッズとの勝ち点差は『6』に開いた。上位陣との直接対決が軒並み残されていることが救いだが、厳しい状況であることに変わりはない。

喜田の退場とファビオの同点弾の価値は、いまのところ見えにくい。シーズンが終わったとき、自己犠牲でチームを救った若きリーダーのワンプレーと、助っ人ザゲイロによる起死回生のヘディング弾の価値が初めてわかる。

いまはまだ、勝てる試合を勝ち切れなかった無念が先行している。

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