「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

『ベテランと若手の融合』、それを体現する濃密なカップ戦。いまは感謝の気持ちしかない [ナビスコカップ&ルヴァンカップ総括] <無料>

 

グループステージからノックアウトステージまで計10試合。マリノスにとってのリーグカップ戦が終わった。

準々決勝・大宮アルディージャ戦ではアウェイゴールルールを活用して勝ち上がり、反対に準決勝・ガンバ大阪戦では同ルールに泣いた。どちらも2試合合計のスコアが同点だからこそのルール適用だが、幸運や不運といった不確定要素で語ってはいけない。経験値の差がルールの部分に該当したと捉えるべきだ。

あえて丹羽大輝選手のコメントを引用させてもらう。自分たちへの指南として受け止めたい。

「先制点を取られて0-1になったけど、自分たちは1点取ればいい状況だったので最初と変わらなかった。1-1になってからは、相手のほうがバランスを崩していたと思う。今回含めて3年連続で決勝に進んでいるので、マリノスの選手よりもウチの選手のほうがこういったシチュエーションを経験していることが生きた」

 あらためて悔しさがこみ上げてくるが、負けは負けとして認めよう。残念ながらガンバとの力差を認めざるをえない結果となった。

それでもなお強調したいのは、数多くの収穫を手にした大会だったということ。敗退が決まったガンバ戦後、中町公祐は「このルヴァンカップは若い選手をたくさん試合に使って、全員の力でここまでくることができた。テツさん(榎本)はサブの状況から勝ち上がっていった。本当の意味でチーム全体という言葉を体現できた大会だと思う」と力強い言葉で回顧している。当事者である選手たちは、敗退した悔しさだけでなく、ある種の手ごたえをつかんでいた。

月日は半年以上も遡る。まだ寒さの残る3月下旬、ナビスコカップのグループステージ初戦の川崎フロンターレ戦に臨んだ面々はリーグ戦で出番の少ない、いわゆる“控え組”だった。GK榎本哲也を筆頭に栗原勇蔵、兵藤慎剛、三門雄大(現・アビスパ福岡)と伊藤翔とセンターラインには経験ある選手を配したものの、脇を固めるのは新卒選手など20歳前後の選手ばかり。新井一耀はほとんどプレー経験のない右SBで起用され、栗原はコンビを組むパク・ジョンスのプレースタイルを理解できていない状態だった。新加入の前田直輝は移籍後2試合目の公式戦先発となった。

留意すべきは、彼らが練習試合などを行うことなく、常にぶっつけ本番で公式戦のピッチに立っていたこと。グループステージの全6試合中5試合はミッドウィークに開催されるため、準備期間はその前の週末に開催されたリーグ戦が終わってからの数日のみ。リーグ戦に出場した面々はコンディションの回復に努めるタイミングのため、試合に出る側は練習相手もろくにいない状況だった。

だがしかし、練習試合がなくても公式戦のピッチに立てるのは幸せなことである。加入当時、厚い選手層に阻まれてカップ戦出場すらできなかった経験を持つ栗原は「いまの若いヤツは恵まれている」とつぶやいた。誤解を恐れずに言えば、健康状態を保って練習に参加している選手はほぼ自動的にカップ戦の出場機会を得ることができる。特別指定選手でのちに来季加入が内定する高野遼(日体大4年生)が3試合に先発フル出場しているように、ポジションによってはそもそも人数が足りていなかった。

グループステージ最終節のベガルタ仙台戦は、リーグ戦のない週末だったこと、そしてノックアウトステージ進出を懸けた試合だったこと、という複数の理由からリーグ戦の主力がピッチに並んだ。ただし、その試合はあくまで例外で、基本的には勝敗以上に若手選手の起用にこだわった。リーグ戦の主力を温存したとも言い換えられるが、エリク・モンバエルツ監督は「この大会を通しての目標の一つに、若手に試合時間を与えて彼らを伸ばすことがあった。他の大会と並行していたということもある。それに関してはある程度達成できた」と話している。これが偽らざる本音であろう。結果至上主義ではなく、経験を積ませる場として活用させる方針だった。

その効果は図らずもノックアウトステージに進出してから見えてくる。夏場を過ぎてからというものの、チームにはけが人が続出した。2ndステージに入ってから中村俊輔、下平匠という左利きでポゼッションの核となる選手がほとんど稼働できていない。中町は筋肉系のトラブルで準々決勝第1戦・大宮戦を欠場し、その第1戦の途中にファビオが負傷交代を余儀なくされ、試合後には喜田拓也も足首痛に倒れた。準決勝・ガンバ大阪戦前には兵藤が目に変調を訴えて離脱し、第1戦では栗原が左ひざを痛めてしまった。第2戦では伊藤が右太もも裏の痛みで、ゴール直後にベンチに下がった。

同時に、チームは齋藤学を日本代表追加招集で、遠藤渓太をU-19日本代表招集で欠いていた。これだけ入れ代わり立ち代わりで負傷者が続出し、さらに代表招集で選手を抜かれる。チーム力を保つのは至難の業だ。だが、天野純や前田直輝、あるいはパク・ジョンスといった面々がここで重要な役割を果たす。終盤はけが人が多くなり、若手の力が必要になった。彼らが入ってもチーム力を大きく落とさずに戦えた。それは若手が成長したから」とモンバエルツ監督は胸を張る。グループステージで試合経験を積ませたことが、大事な勝負どころで効力を発揮した。

この世界にいると『ベテランと若手の融合』という表現をよく耳にするが、それを体現するカップ戦だった。そして在籍している、あるいはしていた選手のほとんどがチームの前進に関わった。これはとても珍しいことだ。

グループステージ初戦の川崎フロンターレ戦では、全員が辛抱強く守ってスコアレスドローで勝ち点1を拾い、第5節・アビスパ福岡では途中出場の伊藤が後半アディショナルタイムに痛快な一撃で勝ち点3をもたらした。第6節・アルビレックス新潟戦ではFC町田ゼルビアに期限付き移籍した仲川輝人がプロ初ゴールを貴重な同点弾という形で決めた。ノックアウトステージに入ってからは、大宮戦で金井貢史が価値あるアウェイゴールを記録。このゴールが第2戦での完封勝利と勝ち上がりにつながった。ガンバとの第1戦ではトップ下の天野が確かな成長を示し、一皮むけつつあることを証明した。

そして、このすべての試合でゴールマウスを守ったのが榎本だ。シーズン開幕当時は控えGKという立場ながら、グループステージから常に守護神として鎮座。飯倉大樹の負傷によってリーグ戦での出場機会を得ると、チームに勝ち点をもたらすビッグセーブを連発した。ノックアウトステージに入ってからの神懸り的なセーブの連発は、多くのサポーターの脳裏に焼き付いているに違いない。

あまりにも濃密で、今後につながる大会だった。チーム一丸となったという観点でも、もしかしたらリーグ戦での内容・結果よりも価値があったかもしれない。その対価としてタイトルを獲得できれば最高だったが、現時点で力が足りなかった。だが、裏返せばチームとしての伸びしろとも言える。もっともっと強くなる余地がある。完成度を高めることもできる。その先にタイトルがある。

カップ戦における準決勝敗退は、明日のマリノスへの道標だ。選手たちの奮闘に拍手を送ると同時に、いまは感謝の気持ちしかない。

 

 

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