「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「マリノスはすべてがレイソルの3倍なんだよね」  [短期集中連載:ドキュメント 小林祐三 vo.2]

vol.1からのつづき

 09年のレイソルは開幕からなかなか白星に恵まれず、7月には高橋真一郎監督を解任し、ネルシーニョ監督を招聘した。しかし劇薬を投じてもすぐには結果が出ず、残留争いに巻き込まれてしまう。その最中、筆者は会社側の事情によって担当替えを命じられる。F・マリノスこそ据え置きだったが、残留を争う柏レイソルから、今度はJ1への昇格争いに身を置く湘南ベルマーレへ“移籍”することになった。

 急な異動命令に戸惑ったが、懇意にしてくれていたクラブ関係者やスタッフ、そして選手に別れを告げなければならない。小林もその一人だった。

「狭い世界だから、また会えますよ。それぞれの仕事をしっかりやりましょう」

 場所は初めて会話を交わした時と同じ、すっかり暗くなった駐車場だった。こんなカッコいい言葉を最後にもらい、笑顔で互いの健闘を誓い、しばしの別れとなった。

 結局、そのシーズンのレイソルは16位という結果に終わり、J2降格を余儀なくされた。一方で、筆者が担当するベルマーレは最終節に勝利して3位に滑り込み、劇的な形でJ1昇格を決める。担当クラブはその翌年も据え置きだったため、小林とはすれ違いで別々のカテゴリーを仕事場にした。2010年、筆者はマリノスとベルマーレというJ1クラブを2シーム担当し、小林は自身2度目のディビジョン2を戦い、1年でのJ1昇格を目指した。

 カレンダーは進み、秋深まった季節だっただろうか。ある噂が舞い込んだ。『右SBの補強を考えている横浜F・マリノスが柏レイソルの小林祐三にオファーを出している』という内容だった。一瞬、躊躇った後に電話帳から電話番号を探し、無心で発信ボタンを押した。担当替えで別れを告げた日以来の会話。小林は突然の電話に驚いた様子だったが、察しのいい彼はすぐに気づいたようだった。

「噂を聞きましたか。実は、そうなんです。正直、迷っています」

 高校卒業後に加入し、7年間を過ごしたレイソルへの愛着は強かった。クラブは小林を必要とし、契約延長のオファーを提示していた。指揮を執るネルシーニョ監督も残留を強く要求していたという。

 1週間程度だろうか、少し時間を置いて、もう一度電話を鳴らした。依然として迷っている様子がうかがえたが、言葉に変化があった。

 

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