「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

敵として日産スタジアムに戻ってくる彼にブーイングを浴びせる理由など一つもない [兵藤慎剛、コンサドーレ札幌移籍について]

 

10日、横浜F・マリノスはMF兵藤慎剛(31)がJ1・コンサドーレ札幌に完全移籍することを発表した。兵藤は国見高校から早稲田大学に進学し、2008年にマリノスに加入した。プロ1年目からリーグ戦28試合に出場し、木村和司元監督が「代えの利かない選手」と絶賛した2011年には34試合3060分フルタイム出場を達成。チームが優勝を争った2013年にはキャリアハイとなる7ゴールを決めるなど、2016シーズン終了時までの在籍9年でJ1通算268試合出場32得点を記録した。

中盤ならどの位置、役割でもこなせるマルチロールとして重宝されてきた。平均すると年間約30試合に出場していた計算になる。しかし、最近2年間は徐々に出場機会を減らしていたことも事実。2015年は1stステージこそ全17試合に出場したが、2ndステージは11試合の出場にとどまる。年間のプレータイムは1338分と当時の過去最低で、ルーキーイヤーでさえ同じ28試合に出場し、出場時間は1954分だった。

2016年はさらに苦しいシーズンを過ごした。年間で18試合しかピッチに立てず、先発はわずか8試合。出場時間802分といずれも2015年を下回る数字で、持ち味を出せたとは言い難い。負傷による長期離脱があったわけではなく、日々のトレーニングで手を抜いている様子ももちろんない。それでも出場機会はなかなか巡ってこなかった。

エリク・モンバエルツ監督が志向するサッカーとの相性が絶望的に悪かった。そう言わざるをえない。

マリノス加入後、兵藤が主戦場としてきたのはいわゆる2列目のポジションだ。[4-2-3-1]システムに当てはめると左右のMFである。しかし、モンバエルツ監督が両サイドハーフに求める仕事はほとんどウイングに近い。齋藤学、マルティノスの両翼はスピードと打開力を有しており、前田直輝や遠藤渓太にも同じことが当てはまる。「足が速いのは本当にうらやましい」。そうこぼしたのは一度や二度ではない。

かつてはボランチがメインのシーズンもあった。だが同じポジションには指揮官から絶大な信頼を得ている喜田拓也がおり、得点力と肉弾戦で存在感を示す中町公祐もいた。喜田が何らかの理由で不在の試合ではパク・ジョンスが守備的な役割を与えられ、終盤は天野純もボランチで起用される機会を増やした。現体制では、あくまでボランチの控えという立ち位置に過ぎなかった。

そしてトップ下には、あの中村俊輔が君臨している。中村が欠場した試合でトップ下として出場したが、連続して起用されることはなかった。終盤は天野や前田がトップ下で起用され、ベンチを温める場面も。周囲と絡みながらオフェンスを構築していくタイプの兵藤にとって、トップ下も居心地の良い場所にはならなかった。

兵藤は自身の居場所を見つけられなかった。裏返すと、指揮官が兵藤を生かしきれなかったとも言える。志向するサッカーに合わないタイプでも、周りと円滑な関係を築いて良さが出る選手もいる。だが、オフェンスがスピードスターの個人技頼みになりつつある現在のマリノスにおいて、バイプレーヤーは持っている能力を発揮する土壌がなかった。

2012年以来、5年ぶりにJ1の舞台に戻ってくる札幌が獲得に本腰を入れたのは、マリノスが天皇杯を戦っている12月下旬のこと。

 

 

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