「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

引き分けに終わったことについて、ネガティブに考える必要はない [J23節 神戸戦レビュー]

 

 

公式戦31試合目にして今季初のスコアレスドローとなった。ちなみに無得点に終わったゲームはそのうち8試合あり、ヴィッセル神戸戦を除いてすべて黒星という結果に終わっている。その対戦相手を見ると第23節終了時点で首位の鹿島アントラーズや2位のセレッソ大阪、4位の柏レイソルといった上位陣が多く並び、これらのチームはマリノスよりも上の順位である。

ゴールが生まれなかったのは5月7日のサガン鳥栖戦以来、実に3ヵ月半ぶりのこと。当時のチーム状態はまさに“底”で、あれ以上悪くなりようのない時期だった。以降、ルヴァンカップのグループステージや天皇杯も含めて、16試合連続でゴールを記録していた。

ここまでリーグ最少の17失点がフォーカスされがちだが、守備の要の中澤佑二は「マリノスは攻撃が機能しないと難しくなる」と常々言っている。攻撃に軸足を置くチームという表現は正しくないが、攻撃で先手を奪えているから守備でも耐久力を発揮できる。その典型が川崎フロンターレに勝利した試合だ。だからこそ5連勝を達成し、今はヴィッセル神戸戦を含む4試合連続でクリーンシートというわけだ。

 さて神戸戦だが、この試合を迎えるにあたって相手に監督交代という劇薬が投与されていたことは無視できない。ネルシーニョ監督は相手の良さを徹底的に消しに来るサッカーが最大の特長で、こちらとしては非常に厄介だった。対して吉田孝行監督はオーソドックスな3ラインディフェンスを採用しながらも、要所でマリノスの良さを消しにかかった。それが後半途中に3ボランチに変更した一手で、試合全体を通して神戸の守備意識はとても高かった。

引いて守る相手をどう崩すか。マリノスに限らず日本サッカーにおける積年の課題に直面した。これが下位に沈むチーム相手ならば大きな問題ではない。今のマリノスの前線の個の能力と、ボランチや両SBを含めた攻撃の手数があれば、90分の中のどこかで攻略できる。いや、できたからこそ今の位置にいる。ただ、神戸は決して弱いチームではない。特にセンターラインの堅さはリーグ上位と言ってもいいだろう。

まず何度か作り出したチャンスを決められなかったこと。49分、マルティノスが右サイドを独力で切り裂き、マイナスパスをウーゴ・ヴィエイラに送った。しかし背番号7は器用ではない足技を繰り出しチャンスをフイにした。62分には左サイドから天野純がクロスを送り、右サイドに流れたボールを松原健がシュートと見せかけて再び折り返す。待っていたウーゴ・ヴィエイラはトラップからの処理に手間取り、またしても相手DFに防がれてしまった。79分、中澤佑二のインターセプトから中町公祐を経由し、マルティノスの折り返しに富樫敬真が反応。しかし難しい体勢からのシュートは枠を捉えられなかった。

 

下バナー

 

 

 主に横に揺さぶりでチャンスを作り、あとは決めるだけという場面まで迫った。しかしながら決定機の数に対して無得点で終わった結果は、意外ではない。チャンスは作ったが、量産したわけではない。そのあたりが神戸の守備の堅さと意識の高さで、監督交代直後という背筋が伸びるタイミングで相対する難しさも介在していた。

4連勝ならず引き分けに終わったことについて、ネガティブに考える必要はないだろう。現時点での力がはっきり見えたという意味で、神戸戦はここまで積み上げたものと足りないものを教えてくれた。「手ごたえを感じる部分もあるし、良い感じに積み上がっている。あとは試合の中での対応力を上げていきたい」という喜田拓也の言葉は的を射ており、同時に課題をクリアしていくのはそんな簡単な作業ではない。

そして、ここへきてチームの中心選手が、似たニュアンスの言葉とともに試合を振り返る場面が増えた。「悪いゲームではなかったけど、優勝を目指すならば勝ち点3が必要だった」(中澤)、「上位にいる以上、こういうゲームを落としてもったいない」(飯倉大樹)。これらは確実に上を見据えているコメントで、何かを得られる可能性がある位置につけている。引き分けたことで順位を5位に落としたが、戦いはここからだ。

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ