「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

あまりにも空虚で、あまりにも悲しい黒星 [J27節 甲府戦レビュー]

 

負傷した選手の程度が気がかりだ。前半に左ひざを痛めてベンチに下がった金井貢史は、受傷した瞬間について「よくわからない」と詳しく覚えていない様子だった。症状としては左ひざの裏の腱が伸びたような状態らしいが、筋肉系の故障の可能性もある。試合後は彼らしく明るく振る舞っていたものの、最後は足を引きずるようにしてバスに乗り込んだ。

追い上げムードの後半途中に負傷した齋藤学は、右ひざに異常が起きたようだ。一度スタッフから『×サイン』が出たあと自らの意志でピッチに戻ったが「動かないわけではなかったので続けたけど、やっぱり全力でプレーするのが難しかったので交代してもらった」。こちらは松葉杖をついて痛々しい様子で報道陣の取材に応じた。

接触プレーに限らず、踏ん張りがきかない状態などで負傷するアクシデントは避けようがない場合もある。ねん挫や打撲といったプレーを続行できるくらいですめばいいが、それ以上の重度で長期離脱になる可能性もある。両選手のけがの詳細は精密検査を行ってみなければわからない。今は軽傷であることを願うしかない。

不運としか言いようがないのは、それが同じ試合で発生したこと。しかも早い時間に先制を許し、交代枠を有効活用して流れを変えたい試合だった点である。3枚しかない交代枠のうち2枚をアクシデントで使うことになり、能動的な策をほとんど打てなくなった。一人は普段なら交代しない最終ラインの選手で、もう一人は絶対に替えの効かない背番号10だ。どちらも指揮官の責任ではなく、誰も予期できない誤算だ。

 

 

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一方で、腑に落ちないのは54分に行ったミロシュ・デゲネクからパク・ジョンスへの交代である。この意図についてエリク・モンバエルツ監督は「戦術的な交代。ボールをつなぐという部分で、より確実なプレーをできるように交代した」と説明。ミロシュ・デゲネクが2失点目につながる致命的なパスミスを犯した数分後だったのは、もちろん偶然ではないだろう。半ば懲罰的な交代と言ってもいい。

ただ、前半からビルドアップに変化をつけたかったのも事実。甲府は特にマリノスの左サイドを研究し、元チームメートの小椋祥平が絶妙なポジショニングと周囲を動かす声で対抗してきた。中のコースを閉じながらサイドに追い出し、そこからプレスをかけてバックパスに追い込む。逆サイドに移ってからのスライドも見事だった。それを丹念に繰り返し、マリノスのミスを誘った。

 打開するための一手として、CBがもう少しボールを持ち運べればよかったのだが、それを得意とするパク・ジョンスはベンチスタート。先制点を許したことでその必要性がより強まったのは間違いないが、戦い方をイメージできていればやはりパク・ジョンスの先発起用が妥当だった。金井のアクシデントがなければもっと早いタイミングでの交代だったかといえば、おそらくそんなこともないだろう。そして2失点してから最終ラインの選手を投入しても後の祭りで、傷口に塩を塗ったようなものだ。

結果論ではなく明らかな采配ミス、マネジメントミスである。すべての試合を勝てるわけではなく負ける局面もあるが、この負け方はあまりにも後味が悪い。チームは痛恨の一敗を喫し、複数の選手が精神面にダメージを負った。指揮官が負うべきこの敗戦の責任はとても重い。

中澤佑二は沈痛な表情で「自分たちでゲームをダメにしてしまうのはもったいない」と言葉を振り絞った。14試合負けなしで上位に進出し、上位陣との直接対決で真価を問われ、まだまだ何かを得るチャンスがある。それなのに自らバランスを崩して自滅してしまった。あまりにも残念で、あまりにも空虚で、あまりにも悲しい黒星を喫した。そしてこの試合と現実から目を逸らしてはいけない。しっかりと向き合った上で、次の戦いに進むべきだ。

 

 

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