「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

残り6試合で何かを掴むチャンスは十分残されている。遠藤渓太のリーグ戦初ゴールは、さまざまな可能性を示唆している [J28節 ガンバ戦レビュー]

 

 

最近、遠藤渓太が口ひげを生やしていた。どうやら中澤佑二との“約束”(命令?)があったらしい。「リーグ戦でゴールを決めるまでは髭を剃ってはいけない」と。

前節のヴァンフォーレ甲府戦と同じような時間帯にアクシデントに見舞われた。右SB松原健がスライディングを仕掛けた際、左足首が芝生に入るような形で転倒。強く捻った状態となり、テーピングを巻いて復帰しようとしたらプレー続行不可能となった。金井貢史に続いて右SBを失い、予期せぬ形で遠藤渓太に出番が回ってきた。

 カップ戦や得点が欲しい場面の終盤などにSBを経験していた遠藤だが、トップレベルの相手にこれだけ長い時間プレーするのは初めて。したがって守備に関して言うと怪しい部分も多々あった。特に前方の選手との連係面に不明確な点が多く、SBとして前を動かすことができないのは致命的だった。とはいえ本来サイドアタッカーの遠藤にこの時点で多くを求めるのは酷である。

そういったグレーな点を補ったのが1対1の対応におけるスピードだ。当然のようにマリノスの右サイドを突いてくるガンバ大阪に対し、遠藤は必死に食らいついていった。ドリブル突破が得意な泉澤仁やスピードあるオーバーラップが特徴の藤春廣輝に自由を与えまいと、タッチライン際で体を張る。もっと攻撃参加したいという衝動もあっただろうが、右SBとして穴を開けまいと奮闘した。

その頑張りへのご褒美が最後に待っていた。イッペイ・シノヅカからのパスを受けたウーゴ・ヴィエイラはなぜかシュートを打たずに切り返し、案の定DFに奪われる。だがボールを拾ったマルティノスが個人技から右足シュートを放ち、GK東口順昭が弾いたところをプッシュしたのは、背番号18だった。「周りは見えていなかった。伸ばした足に当たった」という泥臭いゴールは、遠藤にとって待望のリーグ戦初ゴールとなった。

昨季はルーキーイヤーながらリーグ戦23試合に出場し、順調なプロ人生をスタートさせた。世代別代表の常連にもなり、充実の日々を送った。足りなかったのはゴールという目に見える結果だけ。惜しい場面を数多く作り出し、決定機は何度もあった。だがゴールに嫌われ、シュートが入らない。心の中のモヤモヤは晴れなかった。

 

 

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2年目の今季は、出場機会が減った。このガンバ戦を含めてもリーグ戦8試合の出場で、先発の機会は一度もなかった。眼前には齋藤とマルティノスが立ちはだかり、このポジションの3番手は前田直輝に譲ることに。U-20W杯メンバーとして世界大会に出場したが、満足感を得るには至らなかった。マリノスでの日々と突き抜けきれない自身に少なからずフラストレーションを溜めていたからである。

 何がきっかけで状況が好転するかは分からない。齋藤や金井の負傷がなければベンチ入りしていたかは微妙で、松原の負傷交代がなければ少なくとも右SBとしてあの時間帯に出場するなどありえない。左サイドから攻撃を仕掛けるのを見て、右SBの遠藤はするするとゴール前に上がっていったが、89分という時間帯でなければ攻撃参加を自重していた可能性だってある。「残り時間を考えた中で、自分が攻撃に参加するのは最後かなと思っていた」という思いが、こぼれ球を呼び込んだ。

マリノスの2017シーズンは佳境を迎えている。残り6試合で何かを掴むチャンスは十分残されている。しかし遠藤の2017シーズンはようやく始まったばかりだ。わずか6試合、されど6試合。本人も周囲も予想していなかった右SBでの初ゴールは、さまざまな可能性を示唆している。だから6試合で運命を変えることだって可能だろう。

「ようやく髭を剃れますよ」

 すっきりさっぱりした19歳が、マリノスのエンジンを再点火させた。

 

 

 

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