「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

選手への評価・査定・年俸バランスは、シティ・フットボール・グループとの資本提携がきっかけで間違いなく好転してきた [短期集中連載]契約更改交渉を紐解く vol.3

 

前回からつづく

 

短期集中連載最終回となるvol.3では、交渉内容のさらに内部へ切り込んでいく。データを活用して査定を行った結果、選手個々への条件面の提示がどのように変わり、チーム全体の年俸バランスにいかなる変化をもたらしたのか。その実態に迫った結果、マリノスの目指す方向性がおぼろげながらも、少しずつ見えてきた。

データ査定と同じように昨オフから積極的に導入されているのが、契約時の『インセンティブ=動機付け』である。端的に言うと、事前に試合の出場数や出場率(公式戦全体の中で出場した時間の割合)の下限ラインを設定し、選手はそれをクリアした時に一定率でボーナスを獲得できるという仕組みだ。

Vol.2で『サッカーは数字に表れにくいスポーツ』と述べたが、少ないながらも計量できるものも存在する。それが前述した試合の出場数や出場率であり、あるいはゴール数も該当するかもしれない。これは野球でいうところの“出来高払い”というシステムと同じだ。数字を算出しやすい野球の場合、投手も野手もタイトルボーナスのようなものが常識的に存在すると聞く。ホームラン王や打点王、あるいは最多勝利投手にボーナスが出るのは、まったくもって自然な運びと言えよう。

だが、しかし、サッカーは難しい。優勝賞金を選手やスタッフで分配するチームはあるだろうが、それは個人レベルのインセンティブとはやや趣旨が異なる。となると、やはりゴール数、つまり得点王になった際のボーナスが一番わかりやすいのだが、その他でインセンティブを表現するのはなかなかの難題である。そこで試合出場にスポットを当てたというわけだ。

もともと出場給が設定されている場合もあり、金額こそ違えども勝利給はJリーグのほとんどのクラブに存在する。それとは別に、シーズントータルで成績を評価し、事前の取り決めに従ってインセンティブが発生する。詳細は選手それぞれで当然異なるが、試合出場に向けたモチベーションアップになるのはポジティブなことだろう。まさしく動機付けである。

付け加えたいのは、選手だけでなくクラブ側にもメリットがあるということ。インセンティブを設定することで基本給を抑えやすくなる。結果を出した選手に対して支払うのは、クラブとしても喜ばしいことだろう。反対に達成できなければ、その契約は実行されず不履行となる。選手とクラブの双方にとってメリットがあり、デメリットが少ない取り決めと言えるだろう。

マリノスの場合、昨オフに加入した選手に対してインセンティブ契約を提示しているケースが多く、今後は既存選手にも有効活用されていくはず。使えるのは得点王や出場率に対してのボーナスだけではない。例えば、今季の成績が芳しくなかったため減俸提示だったとしても、来季の成果次第でリカバリーできるシステムを作れば、選手も心機一転前向きに新シーズンに臨める。インセンティブにはプラスアルファの考え方と、リベンジのチャンスという二つが主に存在する。

こういった交渉を経て、チーム全体の年俸バランスがかなり整ってきた、いや正常化してきた印象を受ける。以前はタイトルを獲得していないにもかかわらず年俸が高騰し、クラブの台所事情を苦しくすると同時に、選手間の歪な関係を作る要因になっていた。そして市場価値とかけ離れた年俸を得た選手は、マリノスを離れる際に苦労したケースも少なくない。誤解を恐れず言えば、年俸の高すぎる選手が存在していたのである。

 

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