「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

そしてウーゴ・ヴィエイラ。最後に主役になるのは、持って生まれた才能かもしれない [天皇杯準決勝 柏戦レビュー]

 

 

「今年のマリノスのサッカーがそのまま出た」と重鎮・中澤佑二が頬を緩ませた。

早い時間に先制を許したのは痛かった。いくら飯倉大樹といえども、あのシュートはお手上げだ。しかしながら、失点場面を精査するとシューターのハモン・ロペスを褒めるしかない。シュートに対する用意ができていなかったのは事実だが、あのタイミングと距離であの類のボールが飛んでくるのは、ちょっと想像しにくい。それならば開き直ることも可能で、気落ちせずに試合を進められた。

試合の潮目は、先制点献上直後のピンチを防いだシーンだろう。名実ともに守護神となった飯倉は「伊東くんのヘディングシュートが入らなかった時に、まだツキがあると感じた。その後も気持ちを切らさずにプレーすればチャンスはあると思っていた」と振り返る。入らなかったのではなく、ファインセーブだ。ここでの我慢が、歓喜への呼び水となった。

後半に入り、柏レイソルの足が止まり始めた。その時間帯に輝いたのが背番号16である。途中出場で1.5列目に入った伊藤翔が抜群のパフォーマンスを見せた。同点ゴールとなったヘディングシュートだけでなく、ビルドアップの場面で後方からボールを引き出す動きも秀逸だった。

しかしながら、伊藤の投入は扇原貴宏の負傷がなければなかった。さらに先制を許してビハインドだったことで、交代カードがストライカーというチョイスになった。まさしく“災い転じて福となす”である。ここでの2トップ採用が逆転への布石となる。

 

 

下バナー

 

最前線で相手ゴールのみを見据えるウーゴ・ヴィエイラと、少し下がり目の位置でビルドアップに顔を出し、ハイボールでも献身的に競り合った伊藤。彼らはこれまで何度も述べているように2トップタイプのFWで、特に何度も「2トップをやってほしい」と話していた伊藤はまさしく水を得た魚のように躍動した。

 そしてウーゴ・ヴィエイラである。中澤が「90分のうちの1分で仕事をする」と苦笑いするリアルストライカーは、90分では時間が足りず120分必要だった。それまでキレのない切り返しでボールを奪われてばかりで、山中亮輔からの浮き球パスもミートできない散々な内容に、頭を抱えた方も多いのではないだろうか。それでも最後に殊勲の決勝ゴールを挙げて主役になるのは、持って生まれた才能かもしれない。

ファインゴールで先制されながらも、その後のピンチは飯倉を中心に耐えしのぎ、負傷のアクシデントを思い切りの良い采配でプラスに変化させ、途中出場の選手がこれ以上ない仕事で勢いをもたらし、最後はストライカーの劇的ゴールで勝利を手繰り寄せた。

いざ、決勝へ。激アツで胸アツな準決勝だった。

 

tags: ウーゴ・ヴィエイラ

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ