「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

主力の半数以上が何かしら問題を抱えていた。リスクを承知で起用した指揮官の思いも、痛いほどわかる [天皇杯決勝 C大阪戦レビュー]

セレッソ大阪ゴール裏を上回る数のサポーターが埼玉スタジアムに駆け付けた。人口密度も声量も、マリノスが勝っていた。当たり前といえばそうかもしれないが、元日特有の高揚感ある応援は素晴らしかった。

8分に伊藤翔の2試合連続ゴールが決まり、さらにテンションが上がる。下平匠のアーリークロスが相手CBの背後で待つ伊藤を正確に捉え、背番号16は胸トラップから右足で冷静にゴールネットを揺らした。

とはいえ、この先制ゴールで勝利を確信するのは難しかった。リーグ戦終盤のセレッソ戦やジュビロ磐田戦、あるいはベガルタ仙台戦がそうだったように、早い時間に先制するとマリノスは全体のラインが下がってしまう傾向にある。だから勝利するためには先制後の戦い方こそが最大のポイントだった。

そんな心配をよそに、マリノスはまずまずのパフォーマンスを見せた。全体のラインを下げることなく勇敢に戦い、マルティノスがいる右サイドに起点を作って攻める。中盤では中町公祐が絶大な存在感を発揮し、特に球際の攻防で無類の強さを誇った。相手のパフォーマンスがあまり高くなかったことを差し引いても、マリノスは悪くない出来で前半の残り時間を過ごした。

後半に入って、ビハインドのセレッソは前へ出てくるが、決定的なピンチはなかった。むしろ、それを逆手に取ったカウンターで再びチャンスを作る。試合に潮目があったとすれば、この時間帯だろう。マルティノスや遠藤渓太は惜しい場面を作り出したが、この日アドレナリン全開の伊藤に追加点を狙えるシーンは訪れなかった。

失点場面に関しては、シューターへのケアが軽かったこと、GK飯倉大樹が弾いた位置が悪かったこと、そして松原健のクリアが結果的に相手へのパスのような形になったしまったこと、という3点が原因として挙げられる。どれも自責にするのは酷だが、得点と勝敗が分かれる要素はいつだって繊細だ。

 

 

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延長に入ってからの失点もミス絡み。山村和也が上げた何気ないクロスに対して、飯倉は目測を誤って飛び出してしまった。それが目に入った下平匠は一瞬だけ速度を緩め、相手が先にボールに触れた。得点は偶然が大半を占めても、失点には必ず原因が存在する。それでも決勝進出の原動力となった選手たちだけを責められない。

筋肉系の痛みを抱えていた山中亮輔や、前日から体調不良になった天野純は途中交代せざるをえない状態で、元気にプレーしていたように見えたウーゴ・ヴィエイラもまったく不安がなかったわけではない。他にも負傷を隠してプレーしていた選手がおり、欠場した齋藤学や扇原貴宏も含めると主力の半数以上が何かしら問題を抱えていた。だが、彼らが今季のマリノスを支えてきたことも事実。途中でプレーできなくなるリスクを承知で起用した指揮官の思いも、痛いほどわかる。

シーズン最終盤の決勝戦は、紛れもなく総力戦だった。タイトルを掴み取るには、何かが、もう少しだけ足りなかった。それはそのまま2018シーズンの宿題となる。

 

 

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