「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ユン・イルロクとイッペイ・シノヅカがプレシーズン最高の出来でそれぞれの色を出した。マリノスはこの試合で多くの収穫を手にした [PSマッチ FC東京戦レビュー]<無料>

 

プレシーズンにネガティブなど一つもない。成功は自信や糧となり、失敗は教訓であり教材だ。最も恐れていたのは何もしないこと、見えないことだった。しかしFC東京とのプレシーズンマッチは成功と失敗に満ち溢れていた。リーグ開幕を約1週間後に控えて、とても有意義な時間を過ごすことができた。

 まずマネジメントの面に触れると、先発した11人全員が予定通り90分プレーできた。アウェイゲームやアウェイ開幕を想定し、18人が東京都内に前泊。翌日の練習試合で90分プレーする選手たちは移動の負担を減らすために帯同せず、横浜市内でトレーニングを行った。プレシーズンマッチはケガなどのアクシデントが起きることなく終わり、コンディショニングにおける目標を達成した。

内容に目を移すと、キックオフと同時に前線からプレッシャーをかけることで主導権を握った。ボールポゼッションを志向していることでオフェンスばかり注目されがちだが、主導権を握る起点は、むしろ守備にある。立ち合いでハイラインとハイプレッシャーを実践するからこそ先手を奪える。FC東京の考え方のすべては分からないが、マリノスの鋭い出足によって相手が少なからず重心を下げたのは間違いない。

その代償が失点という形で表れたのは5分のこと。FC東京は自陣からのFKをGK林彰洋が担当し、前線へフィード。マリノスの最終ラインは相手の前線(主にディエゴ・オリヴェイラ)と駆け引きを行っていたが、精度の高いボールを背後のスペースに落とされた。カバーのために自陣エリアを飛び出たGK飯倉大樹はヘディングでのクリアを選択したが、これが小さくなったために前田遼一に無人のゴールへダイレクトで蹴り込まれた。

 失点やその時間帯を考えると「これがプレシーズンでよかった」(山中亮輔)。もし公式戦で同じシーンが発生したら、その瞬間に試合が壊れても不思議ではない。だからこうやって目に見える形で宿題を持ち帰れたのは幸運かもしれない。山中は「常に後ろに対しての危機感はある」と率直な心境を吐露し、飯倉は「ゴールを守るという意味で、あれもGKの役割として明確に伝えられている」と話したうえで「自分のポジショニングについては映像を見たうえで、これからどうしていくか調整していきたい」とコメント。あとはアンジェ・ポステコグルー監督がこの失点やその他の場面で最終ラインの背後を突かれていることをどれだけ深刻に受け止めているか、である。

攻撃では宮崎キャンプ途中からアレンジを加えた両サイドバックの巧みな位置取りが功を奏した。ビルドアップ時にボールと反対サイドの選手がアンカーの喜田拓也の横にスライドし、ボランチ気味のタスクを担う。これによってボールが運ばれてきた際に相手のサイドハーフがマーク相手を見失い、マリノスのウイングへのパスコースが確保される。

 

 

こうしてボールがハーフウェーラインを越えると、この日はユン・イルロクとイッペイ・シノヅカがプレシーズン最高の出来でそれぞれの“色”を出した。ユンはタッチライン際に固執せず中に入る動きで相手を混乱させ、天野や山中とのコンビネーションで左サイドを攻略。PK獲得という見せ場もあった。対してシノヅカはウイングらしいプレーで縦突破を強調し、チームに勢いをもたらす。明日の練習試合次第だが、両選手は開幕戦でのポジション獲得に一歩近づいたかもしれない。

 

 

一方で、アタッキングエリアでの質はまだまだ不足している。ビルドアップにかかわることなくオフェンス面での仕事に専念している伊藤翔は「本当にチャンスらしいチャンスが何本あったかというと、自分はPK以外にシュートを打っていない。チャンスっぽい場面はあったけど」と指摘。クロスやラストパスが通らなければゴールは生まれない。そういった意味では、やや正攻法過ぎる攻めが単調に映ったと言えなくもない。例えばマルティノスクラスの突出した打開力があるならいいが、現状のメンバーならバリエーションや変化が必要になってくるだろう。

冒頭で述べたように多くの収穫を手にしたが、最も重要なのはマリノスが変わろうとしている姿勢を見せたこと。石垣島や宮崎でも同じ試みだったのだが、当時は思うように表現しきれていなかった。「最初の2~3週間の準備段階では半信半疑だったと思う」(ポステコグルー監督)。選手は必死にやろうとしていたが、なかなか手ごたえを掴めていなかった。いわゆる成功体験のない状態で、信じて進むことが徐々に難しくなりつつある状況だった。

しかしこの日は違った。攻守ともにアグレッシブでダイナミックになったのは明らか。味の素スタジアムに足を運んだサポーターは、マリノスが変わりつつあることを目撃したはずだ。その是非を問うのではなく、強調したいのは舵を切ったということ。個人的には、その中でどれだけ守備意識も高く保てるかが勝負だと思うが、それはとてもとても難しい作業のはず。完成形になるのが今シーズンとは限らない。でもクラブとして『優勝』を目標として公言したのだから、もう後戻りはできない。

始動日からちょうど1ヵ月が経過した2月17日は、変化の序章と位置付けたい。その歩みはこれからも加速していくに違いない。

 

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