デイリーホーリーホック

【シーズンオフ特別企画】ボランティアグループ「Tifare」代表補佐・栗原賢二さんコラム 「裏方魂② 「Ksスタ前夜」」(2012/12/24)※全文無料公開

改修されたKsスタを見た時の感動

水戸のホームスタジアム・Ksスタが、現在の姿に改装される前を覚えているでしょうか。

1000人座れるかという規模のメインスタンドを、芝生席がぐるりと取り巻く構造。得点ボードは人力で時計の針を動かす手動式、TV中継はカメラマンがスタンドの屋根に上ってました。私達ボランティアにとっても、過酷な会場でした。選手の着替えるロッカールームがそもそも狭く、鋼鉄製の重いロッカーを約50個、数人がかりで外のスペースに運び出す所から話は始まる。当時のメイン会場・笠松から4tトラックで運ばれた備品の数々を積み下ろすのも骨が折れた。

機材の運搬作業だけで精根使い果たす勢いでしたが、当時はお客さんが1200人ぐらいしか来なかったので運営は何とかなったのですね(苦笑)。
その『水戸市陸』がリニューアルされ、主な試合会場になるという知らせを聞いたのは5年前。正直な話ピンときませんでした。笠松でそれなりにノウハウを積み上げてきたのに、また1からやり直しか。とりあえずロッカー運ぶのはもう嫌だなと(笑)

しかし完成したピカピカのスタジアムを見た時、そりゃもう嬉しかった。「わあ、トイレがいっぱいある!」って(笑)。あくまで運営目線です。

こけら落としを控えた2009年11月7日、裏方が集結し歴史的な前日設営を行いました。導線(お客さんの歩く流れ)をシミュレーションして、障害となるものはないか検討。トイレが多くなったのは良いけど、出入口の幅が少し狭い。ぶつからずにすれ違えるかボランティアが2人立って実験し、ビニールテープで中心線を作ったりしました。開場前に並ぶであろうサポーターの待機列を、白いひもでグルグル張り巡らせる。メインスタンド階段から選手バス到着地点まで伸びる軌道は、今もはっきり覚えています。

何より印象深いのは駐輪場。大ざっぱなスペースが割り当てられ、自由に設計してみて下さいとの指示。ここで「丸投げかい!」と暴動を起こさないのが、私達Tifareの偉いところ(笑)。皆でコーンとバーを駆使して、最適の区割りを追求しました。いわゆる『指示待ち』ではなく、自分の判断で動ける。それが水戸ホーリーホックを支える、日本に誇るべきボランティア文化です。

J1ライセンスでなくとも、Ksスタの魅力は失われない

思えばKsスタとなってから、もう60試合以上のホームゲームが行われたのですね。震災影響でメインスタンドが使えなかった時は大変でした。作ってきた運営システムをまた全て壊さなくてはいけない辛さもありましたが、だからこそ裏方はひと回り強くなれたと思います。まだまだ完璧じゃないけど、スタジアムのあらゆる場所を努力と工夫で改善してきました。その積み重ねに対して下された『J2ライセンス交付』は、私達も本当にガックリ。
今までやってきた事は何だったのか?流した汗と絞り出した知恵が、まるごと否定された気分になりました。

とはいえそれで『ケーズデンキスタジアム水戸』の魅力が、永遠に失われたわけではありません。映像演出のセンスはJ1でも、充分に勝ち抜けるレベル。全チームのホームゲームを現地で観て確認したから間違いありません。そして何より、会場に根付いてきた一体感。これからもっと楽しい空間になる。座席数の問題をいつ解決できるのか悩ましいけど、昇格に対する『イメージトレーニング』は常に欠かさず行う必要があります。例えば浦和レッズをホームに迎えた時、どんな運営シフトを組んだら良いか? 「J1上がったら考えよう」という覚悟では、ぶっちぎりでJ2下位に逆戻りでしょう。JFL降格すら危うい。

『水戸市陸』でロッカーを手運びしていた頃に比べ、チームはあらゆる面で格段に進歩しました。成績も観客動員も未だJ2の平均に手が届くかという所だけど、地の底で泥をなめるような状況からここまで来れたという事実が何より尊い。長年かけて「-10000」を、「±0」に変えてきた。要した莫大なエネルギーをこれから「±0」→「+10000」に変えるため使えるのは、本当に幸せです。

努力が必ず報われるとは限らない。ただし報われる人は必ず努力をしている。

これは受け売りですが、水戸ホーリーホックにとって大切な考え方だと。主力選手を毎年のように引き抜かれ、背番号を覚え直す徒労感は確かにきつい。クラブの貧乏さが恨めしくもなるけど、だからといって私達の心意気まで貧乏になってはいけないのです。

夜明けは突如としてやってくるもの。その眩(まぶ)しさにびっくりして、元の暗い部屋に自分で逃げ戻ってしまうのはもったいない。関係者全体として「チャンス慣れ」してないのが、一番の課題ですね(苦笑)。チャンスを確実に生かし、次のチャンスにつなげる。強い組織はそういうサイクルを確立しています。

将来の希望と不安が入り混じった、あの『Ksスタ前夜』から3年。『水戸の夜明け』は近いと信じます。いや、自らの手で近づけてみせると。お客さんの笑顔が溢れるようなスタジアムを作るため、これからも研究と実践を重ねていきます。

(栗原賢二)

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