「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

『一時停止』・・・総合的に考えれば良しとすべき [J12節 仙台戦プレビュー] (藤井雅彦)

 

 

ベガルタ仙台戦の捉え方は難しい。「勝つチャンスはあったし、ピンチもあった」(樋口靖洋監督)。決定機は双方にあり、つまりは
勝つチャンスが平等にあった。そのチャンスを両チームとも決めきれなかったために90分間で一度もゴールネットが揺れず、必然的にスコアレスドローに終わった。当日は各会場でたくさんゴールが決まって必ず勝者と敗者に分かれていたが、このカードだけが引き分けという結果だった。

「こういう試合を勝たないと上にはいけない」と話す栗原勇蔵のコメントはもっともかもしれない。日程面で不利なのは承知の上で、前半をスコアレスで折り返し、少ないチャンスをうかがった。実際、後半に入ってから何度かゴールチャンスを迎えている。狙い通りの展開で、勝機がなかったとは言えない。どうにか1点をもぎ取って勝てれば、価値ある勝利になっていただろう。

一方で負けるリスクがあったのも紛れもない事実だ。開始直後に柳沢敦に決定機を許し、後半にはバー直撃のシュートを許している。ウイルソンとリャン・ヨンギを欠く仙台だが、組織力はJ屈指を誇る。その相手に、マリノスはほとんど良さを出させてもらえなかった。持ち味のプレスが機能せず、ボールの奪いどころが定まらない。相手のロングボール攻勢に中盤はセカンドボール争いに追われ、前方向でボールカットに成功した場面はほとんどなかった。これでは奪ってからの素早い攻撃も機能せず、相手を後ろ向きの守備にできなければセットプレー獲得も難しい。

勝てれば最高のゲームだったが、負けなくて良かったという考え方もある。事実、攻守の重鎮はそういった見解を示していた。「みんなよくやっていると思う。これを耐えられたのは大きい」と話したのは中村俊輔。コンディション面での不利をどうにかしのいだことに価値を見出していた。同じように中澤佑二も「勝ちにいきたい気持ちがある中で中盤の選手やマルキも守備を頑張ってくれた。耐えるときは耐えないといけない」と納得の表情を見せる。

初黒星を喫した第7節・アルビレックス新潟戦も良さを消された。相手のアグレッシブな守備に後手を踏み、最後まで主導権を握れなかった。この仙台戦は狡猾な守備に苦しめられた。特に長所を発揮できなかったのが富澤清太郎と中町公祐のダブルボランチで、ロングボールを多用されたせいもあって得意のボールカットは影を潜めた。マイボールになっても効果的なパス交換ができず、自分たちの時間を作れなかった。

そんな中でポジティブ要素を挙げるとすれば、マルキーニョスのパフォーマンスだ。決定機を外したことに目を奪われがちでも、マリノスのチャンスは彼にボールが収まった場面がほとんどだった。左足首痛という不安を抱えながらも、きっちり役目を果たしていた。終盤はたしかにキレを失っていたが、こういった展開でチーム得点王をベンチに下げるわけにはいかない。枠を大きく外してしまったあの場面を決めていれば、この試合でも勝利の立役者となっていた。心配は無用だ。

勝ち点はたしかに『2』足りなかったが、総合的に考えれば良しとすべきだろう。仮に負けていれば、次の試合に影響を及ぼす。22日にはナビスコカップの決勝トーナメント進出を懸けた清水エスパルスとの大事な試合を控え、その週末にはアウェイでサガン鳥栖との肉弾戦を控えている。気分良く中断期間を迎えるために、ここでの敗戦は大きく影を落とすことになっていただろう。

引き分けの重要性は昨シーズン心得たはず。勝てる試合を引き分けるのは痛手でも、負け試合をどうにかドローに持ち込むことで次に勢いを継続できる。『一時停止』は重要で、前進できなくても後退しないことが肝要だろう。獲得できる勝ち点の計算より、メンタル面を維持するのが大切な場合もある。

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