「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

指揮官の狙いを汲み取った選手がピッチ内でコミュニケーションを取り、迷いなくゲームプランを遂行した [J13節 清水戦レビュー]

 

前半の半ば、右足に違和感を覚えた伊藤翔が自ら交代を申し出る。そして代わりにピッチに立ったウーゴ・ヴィエイラが水曜日のサガン鳥栖戦に続いて2ゴールを挙げ、勝利に大きく貢献した。マルティノスのクロスは紛れもなくワールドクラスで、横からのボールに強いという持ち味が存分に発揮された。また、終盤にはカウンターで扇原貴宏からのパスを受けて独力でゴールをこじ開けた。

 終わってみれば3-1だが、シュート本数は6対15と大きく劣っている。シュート2本で2ゴールを記録したウーゴ・ヴィエイラも含めて、マリノスは3回の決定機で3ゴールを挙げた。チャンスすべてがゴールになることは極めて珍しく、文字通り『抜群の決定力』を発揮したことになる。

しかし、である。試合運びは決して盤石とは言えなかった。2-1でリードした69分、エリク・モンバエルツ監督は疲労の色が濃い前田直輝に代わって栗原勇蔵を投入した。14時キックオフで気温25℃以上の環境でのゲームだった。前半から活動量の多かったサイドハーフがこの時間帯に疲れるのは想定内だろう。だが、交代出場したのは山中亮輔でも仲川輝人でもなく、CBの栗原だった。

この交代によってマリノスの布陣は[5-4-1]に変更。端的に言えば、トップ下のポジションをなくして、最終ラインを分厚くした。狙いも実に明快で、いわゆる籠城作戦である。

「清水がセンタリングを多く上げてきていた。突破する前にアーリークロスを上げていたのでゴール前の空中戦を補強したかった。ウチにはヘディングの強いボンバー(中澤)、ミロシュ(デゲネク)、(栗原)勇蔵がいる。彼らを使ってゴール前の勝負に勝つという狙いだった」(モンバエルツ監督)。一方で、まったくと言っていいほど攻撃に出ることができなくなった。

マリノスは自陣に引きこもって清水エスパルスのクロス攻勢をはね返し続けた。ボールを奪ってからはほとんどボールをつなげず、右MFにスライドした天野純は「最後は体力的にもきつくてクリアしかできなかった」と誰もいない前方のスペース目がけて蹴り出し、全体を押し上げるしかなかった。清水に攻撃のオプションがなかったことにも助けられた。

 

 

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結果的にアディショナルタイムにカウンターからダメ押し点を奪えたが、守備固めにはいささか早過ぎたのではないか。攻撃を捨てて守備に専念するのは残り10分を切ってからだろう。それよりも残り20分以上あったのだから、ピッチ内の問題を解決して全体をオーガナイズするのが先決だろう。

 ポジティブな点を挙げるとすれば、指揮官の狙いを汲み取った選手がピッチ内でコミュニケーションを取り、迷いなくゲームプランを遂行したこと。喜田拓也は「ここ数試合のやられている感じではなく、押し込まれていても耐久性のところで割り切って守るという共通意識を持ってプレーできた」と収穫を語った。自陣でのプレー時間が長くても、専守にはある程度の余力が残っていたようだ。

チーム力の差を考えれば、アウェイゲームでの勝ち点3でも順当と言っていいかもしれない。パワフルなチョン・テセと左足を迷いなく振り抜くチアゴ・アウベスは能力の高い2トップだったが、中盤と最終ラインの戦力比較をしたとき、劣っている要素はほとんどなかった。

ただ、ほんの少しの出来事、ボタンの掛け違いで勝敗が変わるのがサッカーの恐ろしいところ。結果が必要な一戦だったことは百も承知の上で、このゲームを次へのステップにしたいところだ。次に対峙する川崎フロンターレは、一筋縄にはいかない相手である。

 

 

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