川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】#イニエスタに「君は僕が見た中でスペイン史上最も才能あふれる選手だった」と語る #シャビ #シャビ から #イニエスタ への手紙

シャビからイニエスタへの手紙

FCバルセロナ所属のアンドレスイニエスタがヴィッセル神戸に加入することになった。

イニエスタ加入の破壊力は凄まじい。神戸によると、ファンクラブ会員が約1500人増加したと言う。また世界的な選手であることから、ツイッターなどのクラブの公式SNSのフォロワー数は、26日現在で約3万人以上が増加したそうだ。

イニエスタのチームへの合流は、ロシアW杯後になるようです。さらに、Jリーグの追加登録期間が始まる720日以降に、注目のデビュー戦を迎える予定になります。

これから紹介する文章は、バルサを去るイニエスタに対して、チームメイトだったシャビエルナンデスが送った書簡の翻訳です。これは、スペイン紙「マルカ」で公開されたものです。以下のサイトで原文を見ることができます。

http://www.marca.com/futbol/barcelona/2018/05/20/5b019a35268e3e9e118b4594.html

翻訳を担当したのは、バルセロナ在住の堀江哲弘( @tetsuhorie  )です。

なお、記事を翻訳して公開する際の著作権の問題ですが、堀江が調べたところによると、スペインの法律上違法には当たらないとのことなので、本サイトで公開することにしました。翻訳文については、私川本梅花がいくつかの箇所を校正しました。読みやすいように、日本語にした際の句読点などは原文から変えています。ただし、本文の意味内容は変えていません。

書簡というタイトルで綴られていますが、実際は「マルカ」紙の記者にシャビがイニエスタとの思い出を語っています。したがって、イニエスタに対する人称が、「アンドレス」や「彼」になっています。しかし、シャビがイニエスタに出した手紙という設定であるので、「彼」を「君」に変更して、よりリアリティをだそうと思います。

シャビからイニエスタへの書簡(前編)

アンドレス、君がプレーしているのを初めて見た時のことを今でも憶えている。僕がフベニール(Juvenil U18)で、君はインファンティル(Infantil U14)にいた時のことだったね。

クラブの誰かが僕に言ってきた。

「シャビ!下の年代にとんでもないヤツがいるぞ。みんな『うますぎる!』と言っているんだよ。彼の他に、トロイテイロってヤツもいて、そっちはマリオロサスみたいにプレーするらしい。アンドレスはお前によく似ている」

でも、最初にプレーを見た時に、僕の中ではこう思っていた。

「どこがだよ!全然俺になんか似てない。全くの別物じゃないか!」

僕より走れる。ドリブル突破もできる。サイドでプレーもできる。ダブルタッチもうまい。僕とは全然違うな、と。なぜなら、僕は「4番」で、君よりだいぶポジショナルな選手だったからだ。その時代で言えばペップ、今だったらブスケツのような選手だった。一方でアンドレス、君は「4番」であり「8番」であり「6番」であり、ウイングでさえもあった。

ボールを受ける前の体の使い方、両足を使ってのプレー、子供でありながら既にマエストロのような印象だった。今ではすっかり普通のことのように思われているけれども、当時は左足で次のプレーをするために右足でコントロールオリエンタードするのは、革新的だったんだよね。最も驚いたのは、足ですることなく体でボールを方向づけできることだった。

(君の)プレーを見るのは壮観だった。思いもしないプレーをピッチ上でやってのけていた。まるで、君の思考が聞こえてくるようなプレーをすると思ったら、その後には何も考えてないような感じで自然なプレーもしたりする。

アンドレス、君は周りと連携できていた。いつも顔を上げてプレーしていて、ボールを失うことがなかった。つまり、それはジョアンビラと一緒に何年も取り組み、その根本から体に叩き込まれたコンセプトだったんだよね。

「クソッ、俺らより4つ下かよ!?あいつ天才じゃないのか!!」

と、思ったもんだよ。

アンドレス、君は僕が見た中でスペイン史上最も才能あふれる選手だった。

とんでもない天才だと思うよ。

君の人となりについて話すとしたら、それこそ大ごとだ。(なぜなら)全ての意味において尊敬すべき人物だからさ。例えるなら、利他主義者、思いやりがあって、チームプレーの人、勝利者、ピッチのリーダー、そしていつもボールを欲しがる。

それがどういう意味か一般の人にわかるかな?
多くの選手は、引きこもりがちになってボールを欲しがるどころか見たくもないって時がある。けれども君は、いつもボールを要求するんだ。

他の選手らが「おい、おい、おい」とか、「いや、いや、いや、今オレにボールを預けるのはよしてくれよ、今はダメ」と考える時でも、アンドレス、君は「よっしゃ!よこせ、よこせ!」という感じで(みんなに対して)言うんだ。

君の存在は、他の選手らにとってまさに恩恵だったよ。

君は人格者でもあり、真のリーダーだった。

沈黙のリーダー、しかし本物のリーダー。

僕は、ずっとパサーだったので、君やレオ(=メッシ)、ブスケツのような選手が必要だった。

君は僕が得た中で最高のパートナーだった。彼らもどんなに悪い場面になっても、いつも適切な打開策を君にもたらしてくれたよね。アンドレス、君はそれまでどこにいたのかわからないけど、いつの間にか適切なタイミングで僕の眼の前に現れてくれた。

まるで(それは)こんな感じだった。

「オレを見ろ!オレはここにいるぞ!」

でも、まあ実際、(君が試合中)そんな感じで言うことはないんだけどね。

ピッチ上では、多くを語ることはなかった。それでも10年以上、一緒にプレーしたんだよね。そんなこと(=ピッチ上での会話)は、必要じゃなかったんだ。僕たちは、アイコンタクトでお互いを理解していたからさ。ボディ・ランゲージが、コミュニケーションをとるための最良の方法だった。

あと、間違いなくアンドレス、君は学術的なものからも逸脱していた。

時々、試合中に僕らは君に見とれてしまったことがあったんだよ。

「ああ何てことをやってのけるんだ?」

「どうやって振り切った?」

「そんなんの不可能だろうよ!」

そんな感じだった。

君が、ボールをつなぐたびに、君には不可能なことってないんだ、という感覚に襲われたよ。
ドリブル突破、ラストパス、加速力、壁パス、守備バランスを崩すセンス。それら(=君のプレーの数々)は、一緒にプレーする選手にとって幸福なことで、長いことそばにいた僕としても幸福なことだった。君はマエストロ、真のマエストロだ。

中には、アンドレス、君を悪くいう人もいた。「あいつはしょうもない」だの、「あいつは貧弱だの」とね。貧弱?そんなはずは全くないのにね。

君が、体を張って(ボールを)守ってる時は、誰もボールを取れなかった。それが強さ、それこそが真の強さなんだよ。君がそのキャリアの中で、プレーした出場試合数も見てほしいんだよ。それが君の強さを物語ってる。結局のところ、メンタルがすべての鍵だ。君は全ての面で強かった。特に、多くの人が困るような悪い局面でこそね。

君は、家族から遠く離れて生活し苦労していたけれど、もし今の君にそのことを尋ねても、その犠牲にも価値があったんだ、と確実に言うだろうね。

でも、当時の誰が、今のようになれると思えただろう?

当時の誰が、将来が保証されていると思えただろう?

そんなヤツは(1人も)いない。それはとても難しいことだし、とても難解で、その時間もとても長く感じることだろう。普通のヤツは、そこまで到達することはないが、その強靭なメンタルが、君をここまで到達させたんだね。

最後に、アンドレス、君は天使とともにあるヤツなんだ。なんでなのかは、尋ねないでよ(笑)。でもね、君は天使とともにある。イケルカシージャスのような存在だよね。他のヤツにはないが、君らにはいる。君らは、絶妙のタイミングで勝利のパス、勝利のシュートストップ、勝利のボール、勝利のゴールを手品のように引き出すんだからさ。それをバルサやスペイン代表で目の当たりにしてきた。

スタンフォードブリッジで、ヨハネスブルグで、そして、インファンティル(Infantil U14)の決勝戦のあったカンプノウでさえもね。その時、僕とペップはトップチームにいて、二人でその試合を見に行ったのだけど、そこで君は値千金のゴールを決めてたんだよ。

ワールドカップで何を起こしたかも話さなければならない。

もし、誰か時間があって、オランダとの試合を見たら

いやいや、得点のことだけ話そうか(笑)。

もし決勝を見直したら、君がやったことの価値に(世間は)気づくはずだ。
なぜアンドレスは、ゴールを決めたのか?
なぜ君は、ゴールを決めねばならなかったのか?
それは何者にも成し得えないことだ。

誰が、それを成し得るのだろうか?

天使とともにあるヤツ。

つまり、誠実な人物で真の働き者ってことだ。

シャビからイニエスタへの書簡(後編)

一時期、僕らは共存できないなんて言われていたことがあった。君は、今も憶えてるかな。きっと憶えてるよね。

これが(いわゆる)バルサ、論争にあふれるクラブならではのことなんだけれども。

僕のそばには連携できる人物が必要だと、僕はいつも言っていたから(あの論争は)とても残念に思ったよ。
君が、フィジカルではなく、技術の質で勝負する選手ってことは、誰よりも僕が理解していた。そういった強い選手が、間違いなくチームにとって重要なんだ。君やメッシ、ブスケツをみてみなよ。

バルサには、筋力が必要だっていわれるような議論については正直うんざりだった。「なんてことをオレに言ってくれてるんだ!」って思った。すでにクライフが言っているけれども、「サッカーをプレーするのに最も重要な筋力は頭脳だ」とね。それがより重要だし役に立つ。実際は、僕も君も黙ってそういう批判に耐えてきたよね。まぁ、そもそも二人とも、とても無口だったんだけどね(笑)。

だから僕は、アンドレス、君と強く同調していたんだ。僕が君であるかのように。黙るほうが好ましいと思った。どこで何をすべきか。それは「ピッチでだよね」ということを僕らは(僕らに)課していた。

OK3人の新しい選手がやって来るのか。パーフェクトだよ」「望むところだ!」

25千万ペセタかかってようが、その3人と競ってやるよ」

「バルサってところをみせてやろうじゃないか!」

そんな感じだった。

それらがアンドレス、君が持っていたメンタルで、ブスケツもそうだし、例えばトゥレ・ヤヤも持っていたものだ。そういうように考えない者は落ちていく。そこには二つの選択肢しかない。僕たちがやっていたように、その状況に対して反抗するか、あるいは克服できないと思って落ち込んで挫折するか、のどちらかだ。

例えばだけど、憶えてるかな。
南アフリカW杯直前にあった時のことを。
ある日、練習場でトレーニングしてた時、急にプジョルの叫び声が聞こえた。

Nooooooooo!」

僕は、何が起きたのかわからなかった。振り返ると、プジョルが打ちひしがれて、泣いていた。意気消沈して、グラウンドから去るのが見えたんだ。彼は大会に間に合わず、別の選手が招集された。それによって出場にさえ疑問符がついた。でも、プジョルは、強いメンタルのおかげで乗り越えたんだ。

(それから)ペドロのゴールで勝利したモナコでのスーペルコパ決勝戦。

ロッカールームで話された(ルイス・エンリケ監督の/堀江の補い)スピーチも忘れられないよ。

「アンドレス!俺たちは、お前を必要としている。お前がとても重要なんだ。とっても、とっても、とってもな。お前が、誰かの後塵を拝するなんてことはありえない。アンドレス、お前がプレーしないバルサなんて許されないんだ。本当にお前が必要なんだ。なぜなら、お前は異才だからだ。お前がいなければ、二冠さえ手こずることになる。そこを考えてくれ、アンドレス。俺たちが、なぜそう思ってるのかを考えてくれ。俺たちは、お前を必要としているんだ」

まあ、僕は(監督ほど)そんなにオープンな人間ではない。(例えば)危機があるところ、数ヶ月チームが悪い状況に陥った時であっても、いつも君がしたきたことをみんなが見てきた。

君の家族の助けもあったと思うけど、その信じられないメンタルに感謝した時のことを、今一度振り返りたい。アンドレス、君のプレーについて言葉で説明できない感覚に襲われたことが何度かあった。「みんなができると思ってることを、簡単にやってるだけじゃないか」という人もいるけど、それは嘘だね。誰も君のようにプレーはできないよ。

君は、グラウンドで変身する。そこで、真のパーソナリティが現れる。
そこが、君にとって真の生息地だ。君こそが、ボールの名手。プレーしなければ、幸福を感じられないヤツなんだ。それが見られない試合など一つも思い出せない。だって一つもなかったから、思い出しようもないのさ。アンドレス、君はいつもそこにいるんだ。

最後に付け加えると、君は声を荒げることも一度もなかったね。不満をいう時も、リスペクトをもって、きちんと論理立てて話ていた。叫ぶことも、大声になることもなかった。いつも個人主義より先に、チームの立場に立っていた。それは、とても簡単なことではない。と言うのも、全ての選手がなにかしらのエゴは持っているものだからね。

いまだに2006年のチャンピオンズリーグのことを憶えてる。僕が、十字靭帯を壊して、(君が)チームの責任を一手に引き受けてくれた時のことだ。セントラルハーフとしてプレーした。そう、リスボンやミラノでもセントラルハーフだったよね。しばしばスペクタクルなプレーを見せてくれた。しかし、パリでの決勝に至っては、ライカールト監督が、君をスタメンで起用しなかった。

僕にそれが知らされた時に、プジョルにこう言ったんだ。

「アンドレスは、プレーしないの? ねぇ、プレーしないの? プレーしないのか? なんでプレーしないんだ?」

プジョルは、「知らん、知らんよ」と言っていたけどね(笑)。

実際に、(外した理由は)誰にもわからなかった。誰も理解できなかった。(なぜなら)君は、リスボンやミラノでとんでもなく素晴らしいプレーをみせていたからね。

後半になって、君が途中出場した時に全てが変わった。チームに秩序をもたらしたんだ。君のやり方ではあるのだけど、寡黙で何もいうことなく、ラーションやサムエル(エトー)と一致団結して、決勝の流れを変えた。君の心の中では、間違いなく、腹わたが煮えくり返っていたと思うけど、最初に、君がしたことはチームやグループを考えることだった。そういう怒りが、君をよりよい選手にしたとも言える。他の選手であったならば、ロッカールームでスパイクを投げつけて、悪いリアクションをとることもあったかもしれない。でも、君は違う。怒りを強さに変えるんだ。そういう姿勢で、一言も話すことなく、自分に対する扱いが間違っていたということを、ピッチの中で見せつけた。それがイニエスタ、君なんだ。

僕はもうエリートレベルのサッカーから離れつつあるけれども、君も自分自身がどうなったのか、どうなるのか、どうみられるのか、気づくはずだ。

バルサを去った時に、自分が言ったことがわかると思う。

全てに勝利し、とてつもなく素晴らしいプレーをし、世界中から称賛され、全ての人々から敬意を払われる。これらの賞賛は一例に過ぎないよ。なぜなら誰からも君の悪口をきかないし、悪い態度も、しかめっ面をみることもなかったから。あらゆる場所でどれくらい君が好かれているか。いずれ本当に自分がやってきたことがわかるはずだ。

〈了〉

川本梅花

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