川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】崩壊寸前のトテナム【無料記事】プレミアリーグ第10節 リバプール 2-1 トテナム・ホットスパー

崩壊寸前のトテナム

目次

ゲームから消えたエリクセン
選手の移籍希望と監督の独我

Premier League Matchweek 10
Liverpool 2-1 Tottenham Hotspur
https://www.premierleague.com/match/46698

マウリシオ ポチェティーノ監督が就任して6年目になるトテナムは、チーム崩壊の危機を迎えている。監督も選手も、メンタル的にそろそろ限界にきているようだ。そのことに確信を抱いたのは、10月27日に行われたプレミアリーグ第10節、リバプール対トテナム戦を見てからである。疑問だったことが確信に変わっていった。もはや監督交代しか、トテナムには復活の道はない。

ゲームから消えたエリクセン

クリスティアン エリクセンがスパーズの戦術上のキープレーヤーであることは誰もが認めるところだ。しかし、今季のエリクセンのプレーには、困難な状況を打破しようとする工夫が全く見られない。リバプール戦においては、どこにいるのか分からないくらい、ゲームから消えてしまっていた。ポチェティーノ監督は、そんなエリクセンを88分までピッチに残した。まるで何かの罰ゲームを課しているかのような采配だった。不調のエリクセンをピッチに残さなければならないほど、スパーズは厳しい状況の中いる。

試合はスパーズが先制した。ソン フンミンのミドルシュートがデヤン ロブレンの頭に当たってバーを直撃する。跳ね返ったボールをハリー ケインがヘディングで仕留めた。前半は、スパーズが1-0のリードで締めくくる。後半になってリバプールが戦い方をはっきりとさせてきた。スパーズの最終ラインを上げさせないやり方を選択する。つまり、ロングボールをGKのパウロ ガッサニカとディフェンス陣の間に放り込んできた。さらに、右サイドバックのトレント アレクサンダー アーノルドがアーリークロス気味に精度の高いクロスをバイタルエリアに蹴り込んでくる。この2つのロングボールによって、スパーズのディフェンス陣はラインを上げることができない。ボールを跳ね返すのがやっとの状態が、50分から試合終了まで続いた。その結果、リバプールが後半になって70パーセント以上のボール保持率を持った。

試合を見ていて不思議だったのは、ポチェティーノ監督が選手交代以外、取り立てて対策を講じてこなかったことだ。監督は、相手によって戦術も選手起用も変えてくるタイプである。戦い方も、前線からのハイプレスを行ったり、ロングボールを使ってカウンター攻撃をしたり、アイデアにあふれた采配をしてきた。しかし、実際のところは分からないが、ポチェティーノ監督の意図が選手に伝わらなくなっているのでは、と思わせた。つまり監督と選手の間に深い溝ができているように感じたのである。

選手の移籍希望と監督の独我

プレミアリーグにおける今季のスパーズは11位(10月30現在)と低迷している。勝敗は、3勝3分け4敗と負けの数が先行する。悲惨な状況は、プレミアのリーグ戦だけではない。10月1日のUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)のグループBの戦いは無残だった。相手はバイエルン・ミュンヘンで、セルジュ グナブリーに4得点を決められ、2-7で敗れている。具体的には、この試合をキッカケに、監督と選手の確執が表に現れてきたのである。以下の図は、リバプール戦でのシステムと先発メンバーだ。このメンバーの中で、監督が本来は起用したくないのだが、選手層が薄いので起用せざるを得ないと考えている選手がいる。これはあくまで、筆者の考えだが、エリクセン、ダニー ローズ、トビー アルデルヴァイレルトである。なぜならば、この3選手は、移籍を希望していて、成立寸前までいった選手たちであるからだ。エリクセンはレアル・マドリーへ、ローズとアルデルヴァイレルトはマンチェスター・ユナイテッドへ移る予定だった。しかし、金銭的な折り合いがつかずに、致し方なくチームに残ったのである。さらに、エリック ダイアーやヤン フェルトンゲンも移籍でチームともめた結果、今季はベンチに追いやられている。

6年間チームを率いてきたポチェティーノ監督は、結束をうたって一体感をチームに落とし込んできた。具体的には、契約の際は、選手に長期契約を求めてチームへの忠誠心を作り出してきた。彼は選手の若返りを図り、現在のメンバーを育てた。そうして結実したのが、昨季CLの決勝・リバプール戦だった。しかし、この試合前に選手たちの動揺を誘う発言を監督はしてしまう。

「この試合に勝ったらチームを去るかもしれない」

噂では、マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリーから監督就任を打診されていたらしい。そうした背景があっての発言のようだ。彼のこの発言によって、忠誠心を選手に求めてきた監督の意思は、「いったいなんだったのか」と選手たちは思ったとしてもおかしくない。実際、リバプール戦のエリクセンのようにゲームから消えても、なんの工夫もしない選手が現れてくるのである。もはや監督には選手をまとめる求心力はない、と見ていい。冬の移籍市場で、移籍希望だった選手を放出するのか。それとも、彼らを残して監督を解任するのか。スパーズには、どちらかの決断をしなければならない時が迫っていることは確かだ。

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