川本梅花 フットボールタクティクス

【連載】戦術とはなんですか?【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

戦術とはなんですか?

前回と同様にH選手とA監督の会話をもとに話を進めます。

A監督は、H選手に具体的な質問をしてきます。

「相手のフォーメーションはどうだった?」

「1-4-3-3でした。ゴールキーパー(GK)に4人のディフェンダー(DF)が置かれ、中盤の3人は三角形に並んでいます。フォワード(FW)の3人は1トップと2人のウイング(WG)です」

相手チームのシステムは以下。

次に、A監督は、FWのH選手がどこに位置したのかを聞きます。

「僕は左のFWをやっていて、もう1人のFWがSくんで、彼とは横並びの関係でした」

するとA監督は、「ああ、あの試合のことか」と呟きました。

監督は続けて、「うちのチームのミッドフィルダー(MF)は4枚だね。相手のMFは3枚。さて、そこでだ。ボールはどこにあった?」と聞いてきます。

「相手の右のセンターバック(CB)にボールはありました」

とH選手は即答しました。

A監督は、H選手に進行する状況をイメージするように促します。

「もしもだよ、そのボールが相手の右CBから右サイドバック(SB)に渡ったとする。相手の右SBにボールが渡った時、君は左のFWだから、ボールは君の近くにある。ファーストディフェンダーとなる君は、どうやってボールにプレッシャーを掛けに行けばベストなんだろうか?」

H選手は、その状況をイメージしながら、どうすればいいのかを考えます。

「右SBにボールが行った時に、君はボールにプレッシャーを掛けに行きたいのか?それとも、そのボールが再び右CBに返された時にプレッシャーに行きたいのか?どっちなんだ?」

矢継ぎ早にA監督は尋ねてきます。 H選手は、必死で頭をフル回転してイメージを膨らませます。

「僕の横にいたFWのSくんは、相手の右CBがボールを持った時に、左CBにボールが行くだろうと予想して左CBにプレスに行きました。それを見た右CBは右SBにパスを出したんです。そこで僕は、ボールを持つ右SBにプレスに行くのか、それとも中間ポジションを取って、右SBがどうするかをうかがってから行動に出ればいいのか。もしも、右SBにプレスに行って、ボールが再び右SBから右CBに戻されたら、右CBはフリーでボールをもらえることになる……迷う」

A監督は、視点を変えてこんな質問をします。

「相手MFは、この状況で何か考えていると思う?」

だんだんとH選手は、数珠つなぎのようにイメージが持ててきました。

「まず1つ目ですが、相手MFはCBからボールをもらったら前を向いて縦パスを狙おうとします。2つ目に、ボールを受けたMFはサイドの選手にボールを入れようと思うでしょうね。問題はそこですね」

「FWの君はそこで、どうすればいいのかだね。いくつもやり方はある。今から話すのは、その中の1つだ。相手の右CBがボール持って、そこから右SBにボールが送られる。右SBの前には味方の左サイドハーフ(SH)をプレスに行かせる。そうすると、ボールは再び右CBに戻されるだろうね。左のCBにはうちのFWのSをプレスに行かせる。ボールを持っている右CBは、MFに縦パスを出そうとする。そこで君は……」

「そこで僕は、CBとMFのパスコースを防ぐポジションを取ればいいんですね。ボールを出せないと思ったCBは、GKにボールを戻すか、大きく前方に蹴るか以外の選択はなくなります」

一気に言葉を重ねたH選手は、話を終えてから「あっ」と声を上げました。

「君は、もう答えが出ているね。今、君が私と話をして考えたことをチームメイトに話すことが重要になってくる。解決法は『これしかない』ではなくて、『どうすることで解決するのか』をチームメイトと話し合って決めていくこと。味方のFWやSHの協力がないと、パスコースを防ごうとする君のポジショニングもできないのだから。つまり、チームとしての戦い方が大切になってくる」

「戦術」とは、A監督が最後に述べた通り「チームとしての戦い方」のことです。選手それぞれの能力に見合った、チームとしての戦い方を「戦術」と言うのです。「戦術」には、「攻撃戦術」「守備戦術」「チーム全体で行う戦術」「それぞれの局面で行う戦術」があります。

「戦術」を機能させるためには、どのフォーメーションを採用して、どんなシステムを選択するのかにかかっています。また、採用した「戦術」を実行できる選手がいなければ、チームはうまく機能しません。さらに「どうやって戦うのか」と言う意図がはっきりしないチームは、どのような「戦術」を使おうとも、同様にうまく機能しないのです。

川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ