川本梅花 フットボールタクティクス

GKからボールを繋ごうとする大宮と可変システムで挑む水戸(中編)【試合分析】明治安田生命J2リーグ #水戸ホーリーホック 1-2 #大宮アルディージャ【無料記事】

GKからボールを繋ごうとする大宮と可変システムで挑む水戸(中編)

小島幹敏が最終ラインに下りる弊害

大宮アルディージャ・高木琢也監督は試合後の会見で次のように発言します。

「特に押し込まれた時間帯でははっきりと現象が分かっていたが、なかなかそこをうまくクリアすることはできなかった」

上記の発言「はっきりと現象が分かっていた」について。ミスマッチゆえに対応を難しくした、いくつかの「現象」があります。その1つは、コラム前編の冒頭で記した、小島幹敏が「最終ラインに下りてきてビルドアップに参加」することです。水戸ホーリーホックは可変システムを採用しました。4バックから5バックに変更した際、中盤の構成は2パターンあります。センターハーフ(CH)が2枚になるケースとCHが1枚になるケースです。高木監督が「うまくクリアすることはできなかった」という現象の1つは、CHが1枚の時に起きていました。システムの組みわせを図にします。

大宮陣内において、小島が最終ラインに下りてビルドアップに参加した場合、一時的に大宮の最終ラインは4バックになります。小島がポジションを移動しなければ、7対4あるいは5対4の数的優位を保ったままボールを持てるのです。しかし、小島が最終ラインに入ることで、次のような現象が起こります。

上記の図を見ても分かるように、大宮のパスの出し所に「ふた」ができてしまうのです。水戸は小島にボールが渡るとプレスに行きます。小島はセンターバック(CB)かGKにボールを返します。GK笠原のところまでプレスに来られると大きくボールを蹴るしかなくなります。そうしたボールのほとんどは、サイドラインを超えて水戸のスローインになります。または、小島からCBにボールが渡っても水戸はプレスに行くので、CBから出されたパスは、ことごとくインターセプトされました。大宮から見れば、パスミスが多い試合に感じたはずです。開幕戦の緊張感というメンタル面もあるでしょうが、パスミスを誘導したのは、ボールを繋いでビルドアップしようとした大宮の戦術の変化がもたらした現象の1つでした。さらに、水戸の可変システムによるミスマッチと前線からのプレスの有効性がもたらした展開です。

筆者は、試合を記者席で見ていました。筆者の後ろでは、大宮のスタッフがスカウティングをしていました。その中の1人が、大きな声で「小島はビルドアップで(最終ラインに)下りなくてもいいよ。下りるとマズイ状況になる」と言っているのが耳に入ってきました。実際、上記で示したように、大宮にとって不利な状況を作っていたのです。

数的優位なのに失点した原因

前編で話したことですが、73分に外山凌に代わって細川淳矢がピッチに入ってきました。その後の失点の場面で、CBンドカ ボニフェイス(ボニー)の動きが不安定だったことに触れました。外山が交代した後の最終ラインは3バックです。並びは右ストッパーからボニー→細川→岸田翔平の順番です。大宮の得点のキッカケは、FW奥抜侃志のドリブルです。左サイドを疾走する奥抜に対面するのは、右ストッパーのボニー。確認はしていないですが、おそらく秋葉監督は右から細川→ボニー→乾貴哉という最終ラインの並びを望んでいたのではないかと思います。細川を右のストッパーに置く予定ではなかったのか。なぜならば、ボニーは、高さと対人には強いものの、それほど足は速くないからです。右のストッパーに細川を置いていたら、奥抜のスピードに対応できていたし、彼をゴールラインまで自由に進入させなかったでしょう。もっとサイドラインに寄せさせるか、それ以前にドリブルを止めていたと思います。

奥抜の近くには、ボニーと右ウイングバックの前嶋洋太がいます。ボニーは、前嶋に奥抜に付くように左手で指示します。前嶋は、そのままボニーが対処するものと思っていました。しかし、ボニーに奥抜をケアするように指示されたので慌てて加速します。しかし、奥抜がペナルティエリアに入ってきても、動きが遅れた前嶋は間に合いません。もしも、ボニーが前嶋に左手で奥抜に「付け」と指示した時に、前嶋が付いていれば、ボニーはペナルティエリアの中央に移動したと思われます。奥抜から離れられなくなったボニーには、三門雄大がペナルティエリア内に入ってくるのが見えたので、前嶋に指示したのでしょう。

奥抜がペナルティアリアに入ってきた時点で、水戸は4対2の数的優位の状態です。失点にはなんらかの理由があります。この場合、前嶋が奥抜へのケアが間に合わなかった。それによって、ボニーが奥抜をケアしないとならなくなった。さらに、ペナルティエリアに入ってくる三門をフリーにしてしまう。本来なら、ファーサイドにいる富山貴光には岸田か左ウイングバックに入った乾が付かないとならない。選手交代してバランスを欠いた最終ライン。誰が誰をケアするのか、はっきりしないまま、水戸の選手たちはぎこちない動きになってしまいました。

筆者がした秋葉監督への2つ目の質問

筆者は監督会見で2つの質問しました。前編で記したのが最初の質問で、以下が2つ目の質問です。

筆者 開幕戦で細川や瀧澤(修平)などのベテランを起用する保守的な考えもあったと思いますが、この試合でなぜ若手を積極的に起用したんですか?

秋葉監督 クラブが守りに入るクラブではない。30億、40億、50億の資金があって、主力選手が毎年残留してくれて、常に旬の出来上がった選手がいるならば、そういう選択をしたかもしれません。われわれは、若くフレッシュな選手が多くいます。(今季は)15人も新しい選手が来てくれました。さて開幕でどうしようかと考えました。アウェイの開幕だったら、ベテランを多く起用したかもしれません。でも、ホームで戦えるということで、若さや勢いを出そうと思いました。ここで彼らが成功体験を積めれば、グッと成長できるのだろう、と。今日は勝点を落としてしまいましたが、ここでベテランがどう振る舞ってくれるか。われわれのチームには、素晴らしいベテランがいます。そこまで計算できています。ホームで安牌(ぱい)を切るよりは、われわれらしく成長させたり、思いっきり挑んでいくチョイスを選手と話をして選んだということです。

なぜ秋葉監督は、大きなリスクを覚悟して若手を起用したのでしょうか?(後編に続く)

川本梅花

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