川本梅花 フットボールタクティクス

GKからボールを繋ごうとする大宮と可変システムで挑む水戸(後編)【試合分析】明治安田生命J2リーグ #水戸ホーリーホック 1-2 #大宮アルディージャ【無料記事】

GKからボールを繋ごうとする大宮と可変システムで挑む水戸(後編)

試合後の監督会見で、筆者が秋葉忠宏監督にした2つ目の質問です。

筆者 開幕戦で細川や瀧澤(修平)などのベテランを起用する保守的な考えもあったと思いますが、この試合でなぜ若手を積極的に起用したんですか?

秋葉監督 クラブが守りに入るクラブではない。30億、40億、50億の資金があって、主力選手が毎年残留してくれて、常に旬の出来上がった選手がいるならば、そういう選択をしたかもしれません。われわれは、若くフレッシュな選手が多くいます。(今季は)15人も新しい選手が来てくれました。さて開幕でどうしようかと考えました。アウェイの開幕だったら、ベテランを多く起用したかもしれません。でも、ホームで戦えるということで、若さや勢いを出そうと思いました。ここで彼らが成功体験を積めれば、グッと成長できるのだろうと。今日は勝点を落としてしまいましたが、ここでベテランがどう振る舞ってくれるか。われわれのチームには、素晴らしいベテランがいます。そこまで計算できています。ホームで安牌を切るよりは、われわれらしく成長させたり、思いっきり挑んでいくチョイスを選手と話をして選んだということです。

秋葉監督が語った言葉には、切実な内部事情と秋葉サッカーにとって若手の力の必要性を訴える力があります。以下は昨季の開幕戦のシステム図です。次に、今季の開幕戦でのシステム図を示します。

2019年2月24日 J2リーグ第1節 ファジアーノ岡山対水戸ホーリーホック

2020年2月23日 J2リーグ第1節 水戸ホーリーホック対大宮アルディージャ

2試合で共通するスタメンは、ンドカしかいません。この試合でのンドカのスタメンは、細川淳矢がケガで試合に出られなかったことが関係しています。確かに、昨季と今季を比べれば、11人中6人の選手が移籍してチームを離れました。しかし、残りの5人は今季も在籍しているのですから、大宮戦での選手起用は、異例のことだと考えられます。では、なぜ思い切った変更を選択したのでしょうか?メンタル面から見れば、危機感と発奮を促した選択だと思われます。もう1つ重要なことは、戦術面だったと筆者は考えています。大宮戦でのシステムは、大きく分けて3つありました。

  1. 「4-4-2」のフラット型
  2. 「3-5-2」の中盤が三角形型
  3. 「3-5-2」の中盤が逆三角形型

「4-4-2」は上記の通り。「3-5-2」は次のようになります。

「3-5-2」の中盤が三角形型

「3-5-2」の中盤が逆三角形型

大宮戦における水戸は「4-4-2」でスタート。その後「3-5-2」となり、中盤はセンターハーフ(CH)2人の三角形と、CH1人の逆三角形に変更します。中盤の構成は流動的で、山田康太と安東輝の2人のCHになったり、安東1人のアンカーになったりします。このシステムで最も特徴的なのは、ビルドアップの際のポジショニングです。

ストッパーがサイドラインに張ってビルドアップの起点になる

左右のストッパーのどちらかが、サイドラインに張ってビルドアップの起点役になります。右サイドならば岸田翔平であり、左サイドならば乾貴哉がサイドラインに張ります。ストッパーがサイドラインに張ることでパスの選択肢が増えるのです。これは、結果的にそうなのか、意図してそうなのかは分からないですが、選手間がトライアングルな関係を作れます。

トライアングルな関係を築く

偶然の産物なのか、意図した戦術なのか分かりませんが、結果的に、選手と選手がトライアングルを作れるポジショニングであることから、パスコースの選択が多くなって、数的優位を作りながらボールを回すことができるのです。意図的であれば「3-4-3」や「4-3-3」が下敷きにあるのかと思われます。さらにDFがハーフウェーラインを越えると、GKがエンドラインから12メートル上がってきてポジショニングをします。高い位置を取るDFの背後をカバーするために、GKがあらかじめ前にポジショニングするのです。

筆者が最初にこの試合を見て「何かとんでもないものを見せられた」という印象を持ちました。試合には負けてしまいましたが、戦術的にはとても興味深いやり方でした。斬新であってリスクを伴う戦術と言えます。こうしたやり方に対応できるのは、若い選手だと考えても不思議ではありません。例えば、GKがいい例になります。GKは安定感が求められます。チームに安定をもたらす存在がGKというポジションです。安定感からすれば松井を起用します。しかし、スタメンに松井謙弥ではなく牲川歩見を起用したのは、DFがハーフウェーラインを超えた際に、ゴールラインから12メートル先にポジショニングして、相手にボールが渡って裏を狙ってきたら、すぐにゴールをカバーするスピードを考えたら牲川を選択するのは当然だと思います。

このように、若手を起用したのは、戦術に合うのか合わないのかによるものだと思われます。ただし、中断明けの試合では、可変システムを採用するとは限りません。いずれにせよ、戦術的な見どころがたくさん詰まった試合でした。

川本梅花

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