「football fukuoka」中倉一志

手に入れた新たなバリエーション

150820_02

雁の巣に降り注ぐ刺すような日差しも、ここへ来て、少しずつ、少しずつ和らいでいるのを感じる。暦の上ではもう秋。まだ暑さは残るものの、確実に季節は変わりつつある。そして、気が付けばリーグ戦も残りは13試合。ともに勝利を目指して戦ってきたシーズンも、いよいよ最終コーナーを回った。ここまで福岡が、コツコツと積み重ねてきた勝点は48。自動昇格圏である2位の磐田との勝点差を3に詰めて、勝負の時がやってきた。

それを改めて知らしめたのが第29節の磐田戦。ここまで堅いサッカーで勝点を重ねてきた井原正巳監督は、ディフェンダー陣に怪我人が続出するという難しい状態の中、磐田相手に第2節以降封印していた4バックを採用。真っ向勝負に出て、昇格に向けて最初の大一番と言われた試合を狙い通りの戦い方で勝ち切った。もちろん、用意周到な準備の末に採用した4バックだが、ここぞとばかりに勝負に出た井原監督の姿勢は、ここからが勝負だということを、自らの姿勢で示した。

そして20日、ビルドアップのトレーニングでは4バックを採用。さらに実践形式のトレーニングでは攻撃側を1トップ2シャドーに、守備側を4バックにして細部に渡って確認を行った。そして、4バックにする利点を井原監督は次のように話している。
「攻撃の距離感が近いこともあって、トップに入った時のサポートであったり、それに絡む攻撃が増える。また、ビルドアップ時に前に人数をかけられるので、ボールがしっかりと回りやすい。磐田戦でも、前線が孤立する状況が少なく、いい形での攻撃が非常に多かったと思う」

磐田戦を見る限り、守備面では課題が残っているようにも見えるが、井原監督の言葉通り、攻撃面の活性化という点では効果てき面。ボールが回ることで、ウェリントンの足下の技術の高さや、相手を背負ってプレーできる強さなどの特長を活かせるようになり、そのウェリントンの存在が、自分の近くでプレーする城後寿、金森健志、そして鈴木惇らの特長を引き出すことにつながっている。開幕前、相手の戦い方によって、4バックと、3バックを使い分けると話していた井原監督だが、その手応えは磐田戦で得たと話す。

選手たちにも、突然とも思える4バックへの布陣変更に戸惑いはない。もちろん、4バックと3バックとでは、中への絞り方や、左右へのスライドなど、細かな点で違いはあるが、磐田戦の立ち上がりの時間帯を除けば、概ね組織として機能したことや、ピンチを迎えたとはいえ、いずれも相手に崩されたと言うよりも、自分たちのミスによるものであり、修正は十分に可能だと口にする。これまでとは違うやり方と言うのではなく、今まで積み重ねて来たものをベースにして、新しいバリエーションを加えると言うように捉えているようだ。

井原監督は、岡山戦にどちらの布陣で臨むかは明らかにしなかったが、岡山に限らず、今後は互いの力関係や、置かれている状況、あるいは試合の流れなどを見て、使い分けることになりそうだ。ここまで堅い戦術を選択して来た井原監督だが、バリエーションが増えたいま、どこで、どのように勝負を仕掛けるのか。今まで以上に、その采配に注目だ。

【中倉一志=取材・文・写真】
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ