「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】堂々のプレミアリーグデビュー。遠く福岡の地から感じた冨安健洋の“変わらぬ姿”

冨安健洋。22歳。2018年1月、19歳でアビスパ福岡から世界に羽ばたいて約3年半。ベルギーリーグのシント=トロイデンVV、イタリア・セリエAのボローニャを経て、彼の夢見たイングランド・プレミアリーグの舞台に立った。現地時間9月11日15時、場所はロンドン、エミレーツスタジアム。ノリッジとの対戦となったプレミアリーグ第4節に名門アーセナルのユニフォームを身に纏い、キャプテンのオーバメヤンを先頭に入場する先発メンバーの一員としてピッチに現れた。与えられたポジションは右サイドバック。そこで堂々と自分の特長を出した。

まずはDFとして1対1のバトルの強さと駆け引きの上手さで、空中戦でも地上戦でもプレミア昇格組のノリッジのアタッカーに仕事をさせない。マイボールになると守備時の4バックから3-4-2-1へとシステムを可変するチームにもしっかりと適応。時にはサイドに幅を取り、時には中盤にポジショニング。そこから左右両足を遜色なく使いこなし、味方に正確なパスをつなげる。間違いなくスムーズなビルドアップの一助となっていた。

チャンスと見るや果敢にオーバーラップ。特に印象に残っているのは4分のプレー。味方を追い越し、敵陣深くに侵入。その時だ。相手のディフェンダーの鋭く、深いスライディングタックルが入ってくる。冨安はバランスを崩す。危ない。大丈夫か。でもそんな心配はすぐに吹き飛ばされる。即座に立ち上がり「この強度のプレーに勝つためにここに来たんだ」。そう言わんばかりの表情を見せ、プレミアリーグのプレーヤーとして順応を開始したことを示した。

日本代表の遠征での疲労やチーム合流が間もないことも考慮され、63分での交代となったが、アルテタ監督はもちろん、アーセナルサポーターにも十分なインパクトを与える高いパフォーマンス。ただ、普通に考えて移籍して間もない選手が世界最高峰とも言われるプレミアリーグですぐにこんなプレーができるはずはない。そこにはアビスパ時代からの変わらぬ姿勢があったからこそのように感じる。

根底にあるのは冷静に自分とチーム全体を分析できること。自分のできることの中でチームに足りないものを即座に感じ、それをプレーとして表す。それが難しければすぐに味方とコミュニケーションを取り、時には強く要求をする。チームに合流してわずか数日。一流選手でも表現することが容易ではない緊張感の高いデビュー戦で22歳という年齢に左右されることなく、それができてしまうのが冨安なのだ。

そんなプレーを見てこんなエピソードを走馬灯のように思い出した。それは2016年J1でのデビュー2試合目のこと。対戦した日本代表の経験もある当時G大阪(現磐田)の今野泰幸は試合後「何、あの17歳」と驚きの表情で言い、冨安と並んで当時アビスパでダブルボランチを組んでいた三門雄大(現大宮)は「僕の方が助けられた」と冷静に話していた。この2人の表情と言葉が今でも忘れられないし、彼のプレーの凄まじさを証明しているように思う。

高いレベルに身を置いても常に「冨安健洋」という自分の姿勢は崩さずにすぐにその環境に順応する姿を見ると、「すごい」というよりも「やはり」と感じるアビスパサポーターも多いのではないだろうか。これからもその変わらぬ姿勢でレベルアップしていく姿を楽しみにしたい。

[武丸善章=文]

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