「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

これが今季のスタンダード。これから勝つために必要な勝点1/【レビュー】明治安田生命J1リーグ第2節 川崎フロンターレ戦

 さすがは内田篤人だ。

 彼が一人いることでチームにスーッと軸が通った。あれだけボールを握られてもDFラインが大混乱に陥る場面はなかった。もちろん、崩された場面が皆無だったわけではない。バー直撃のシュートも放たれたし、危ない場面はいくつかあった。それでもピッチの上で絶望的な戦いが繰り広げられたわけではない。最期の最期、伊藤翔から山口一真へのパスが渡っていれば、カウンターからの一撃で川崎Fを沈め勝点3を手にしていたのは鹿島だったかもしれない。つくづく、その前のプレーで伊藤が大島僚太からファウルを受け、脚を痛めていたのが残念だ。

 試合後、ゴール裏から「勝てよ!」という言葉が飛び、それに対して内田篤人が「勝つのは簡単じゃないんだよ」と返したという。サポーターの気持ちもわからないではない。シュート数は18対5。鹿島のサポーターが待つゴール裏に攻める後半は、1本もシュートを打つことができなかった。それで「鹿島らしい戦いができた」と諸手を挙げて賛辞を送るつもりはない。

 しかし、いまのチームは赤ん坊も同然だ。いま目の前で戦っているチームはアジア王者に輝いたチームではない。鈴木優磨もいなければ、三竿健斗もいないし、昌子源もいない。大黒柱だった小笠原満男がチームを去り、どうやって戦っていくべきなのか手探りでよちよち歩いている状態なのだ。それまで何年もかけて鎖で連環してきた阿吽の呼吸はほぼ消え去り、これから新たに築き上げねばならない真っさらな状態になっている。大分との開幕戦はそれを知る戦いだった。鹿島を支えるのは戦術ではない。そこについての是非についてはもう論議しない。現実を受け入れなければならない。選手同士の息が合わなければ戦えないのは事実だ。それでも、2連覇中のリーグ王者から勝点を拾わなければならなかった。そこでもし負ければ、本当に計り知れないダメージを負いかねない状況だった。湘南、札幌と4連敗を喫してもおかしくなかっただろう。

 それでも川崎Fに1点しか許さず、もしかしたら勝てるところまでこぎ着けた。それを讃えずになんとする。小笠原がいればなんとかなると思われたように、新たにキャプテンに就任した内田篤人もチームをまとめ上げ、彼がいれば戦えることを示した。一度の隙を見逃さず、ゴールまで演出した。内田を中心とした新たな鹿島が誕生した記念すべき1日だった。

 

 

 試合後、「よくしゃべったね。最後になんかある?」と言うほど、メディアの質問に詳細に自分の意見を述べた。それはキャプテン内田の所信表明とも言えた。耳を傾け、意見を交わすことで彼が考えていることがぼんやりと見えてくる。内田篤人は、必死になって”鹿島”をつなぎ止めようとしていた。

 昨季、内田が鹿島に戻ってきてからよく使っているのが「鹿島なんだから」という言葉だ。それまではなんとなく誰もが把握できていた”鹿島”だが、小笠原満男という存在そのものが鹿島とイコールだった人物が引退したことにより、その輪郭は想像以上にぼやけ始めている。先ほどはその状態を「赤ん坊」と表現したが、どうやって戦うのが鹿島なのか、ピッチの上で示せる選手は開幕戦ではいなかった。

 川崎F戦では町田浩樹が先発した。敗れた開幕戦で失点に直結するミスを犯したチョン・スンヒョンより町田浩樹の方がよいパフォーマンスだっただろうか。若干、町田の方がよかったかもしれないが、正直に言って内田篤人に比べればどんぐりの背くらべに過ぎない。彼らはまだまだ「赤ん坊」だ。

 しかし、試合のなかで町田は着実に成長した。たった90分のなかで頼もしさを感じさせるプレーができるようになっていた。後半、何度か見せた決死のタックルは昌子源が乗り移ったかのような気迫を伴っていた。あれこそが鹿島のCBだ。内田は町田を讃えもしなかった。

「今日みたいに、ほとんどサボりたいんでまわりを動かしてるだけですからね。しゃべって。それでも結果が、こうやって勝点を拾えていくんで。若い選手、マチとかだったりがこういうしびれるゲームをしていくことで嫌でも成長していくからね。こっちも期待する。それを隣で見れる。成長させていかないといけない。190の左利きのCBなんていないよ。そういうのもなんかちょっとたのしみだね」

 加えて、敢えて「鹿島のCBなんだから」と注文を付け、視線をグッと上に向けさせた。

「何本かミスはあるけどそれはしようがない。オレもこの年になっても申し訳ないけどミスはあるし、それをやっちゃいけないミスとかやっちゃいけない時間帯とかがある。このミスは別にチームに悪影響がないとか、そういうのがわかってくれば。あとは、日本代表とかにも食い込んでいかないといけない。鹿島のCBなんだから。もうちょっとやってもらわないと困るね、鹿島のCBってやっぱり他のCBとは違う」

 正直、町田のニューカッスル・ジェッツ戦のパフォーマンスは、これまでの印象から抜け出すものではなかった。鹿島のCBとしては物足りない。言葉にすると抽象的になってしまうが、”最後の部分で相手にやらせない”という意思表明がプレーのなかから感じられなかった。しかし、内田が隣にいることで着実に成長していくだろう。彼がコンスタントにプレーできるなら、最終ラインに並べる選手は将来を見越して考えなければならない。それくらい、彼の横で1年間プレーすることは大きな差を生むはずだ。

 

 

 「ほとんどサボりたいんでまわりを動かしてるだけ」と言うように、内田自身のパフォーマンスはまだまだだ。それでも、彼がいるだけで一本軸ができる。少し、戦術的な話しをすれば、彼が余裕を持ってプレーできたのにも理由がある。川崎Fの構造的な欠陥を早い時間で見抜いていた。

 川崎Fは、今季からレアンドロ・ダミアンを1トップに据えている。その影響で、小林悠が右MFに下り、右MFだった家長昭博が左MFにまわっているのだ。しかし、左サイドに入る家長はそこまで機能していない。左SBの車屋紳太郎とのコンビネーションはよくない。家長はそこに不満を抱えながらプレーしているようだった。試合のなかでも車屋が選択したプレーに対して不満の意を表す仕草を見せ、それに内田が同調する不思議な光景も見られた(記憶が正しければ、車屋のクロスがゴール上を越えたとき。ゴール前には家長がいたがボールはまったく違うところに飛んだ)。

 前半開始時、川崎Fは左サイドからの攻撃が何本かあった。しかし、ボールを持った車屋は有効なプレーを選択できない。クロスを内田に防がれ、その後も攻撃を詰まらせると、川崎Fの攻撃は右一辺倒に変わった。家長は左サイドでのプレーを早々に諦め、右でプレーするようになった。

「車屋くんだっけ?前に立てば別に問題なかった。とりあえず聖真を立たせておけば、あいつもがんばってくれたし、あとはオレも外を捨てて中のカバーに集中できれば、そんなにやられないかな(と思った)。変に食いついて外に出て、オレが出た裏を車屋くんか誰か、家長さんかブラジル人にやられるのがいちばん怖かったから、オレは出ない。聖真に立っとけよ、って感じだね。前に走ってきたら俺がカバー行くよ、っていう状態にしておけばそんなに崩れない」

 相手の左サイドの攻撃を見切ることで、カバーリングできる状態をつくりだす。相手が右から攻めれば攻めるほど、いちばん外側で余ることができる内田は余裕を持って対応できる。

「ボールを持たれるのはわかっていたし、ある程度は持たせて、最後のところでスペースを潰しちゃえば、カバーリングすれば耐えれるかなと思っていました。そのなかでどうしても家長さんだったり、新しいブラジル人だったり一発を持っている選手がいるので、そこだけ気をつけました」

 内田がそう解説する状態をつくり出したのも内田自身だったのだ。

 ただ、相手もリーグ王者である。後半になると少し攻め方を変えてきた。立ち上がり早々、鹿島の右サイドを崩され馬渡和彰にシュートを打たれたが距離を短くしてのパス交換で崩しに来た。

 それでも失点しなかったのはCBの犬飼智也と町田浩樹が「できるだけ中を固めて、サイドに釣り出されないようにしよう」と確認し合っていたことが大きい。阿部浩之を入れて昨季の布陣に戻した川崎Fに追加点を許さなかったのも、CBの対応が悪くなかったからだった。

 同点弾については内田篤人と伊藤翔の高度な判断がものを言った。

「ほんとは適当にボンって前に蹴ろうと思ったんだけど、翔が裏に動き出したら早いボールを蹴ろうか、でも、早いボールだと裏にツーンと抜けちゃうから、たぶん翔とDFがぶつかってるんだよね。もう足を振りかぶってたときだからわかんないんだけど、ぶつかったんで『これいける』と思ってGKDFの間に途中で変えた。翔がよく決めたよ、あれは。トラップもうまかったし。キックした人もうまかったけど(笑)」

 内田の大きなパスを見事なトラップでおさめた伊藤は逆サイドに流し込んだ。3戦連発の伊藤が振り返る。

「相手の最終ラインが揃ってなかった。奈良だけ遅れていたので、ゴール側に立って体をぶつけた」

 その判断も見事だった。

 

 

 選手はいる。しかし、まだまだ若い。いま自分たちが置かれている状況を正確に把握する必要がある。その意味で、内田が感じていることは、我々も理解しておくべきだろう。

1点取られちゃったんで、早い時間帯に取られると逆においつける時間もあるし、憲剛さんのゴールがほんと綺麗すぎたんで『しようがねえ』っていう雰囲気がありました、正直。そっから1-1に前半のうちに追いつけたことがほんとでかかった。あれで0-1のまま前半が終わるのと、1-1でロッカーに帰って監督の指示だったり、オレがしゃべるとかがあればチームとして粘れるね。でも、OKじゃないよ。俺らはアウェイでもフロンターレとかそういうチームに勝ってきて優勝してるから。満足はしていないけど、去年60試合やって、怪我人も多くて、今年はもっと多くなるかもしれない。たぶんツケが来るよ。そこら辺の状況を踏まえた今日の勝点1は次につながると思う」

 「チームとしては今日のテーマは忍耐というのはあったと思う。まわされて、自分たちから取りにいってスペースを使われるくらいなら、カチッと守って守ろうと思えば鹿島はたぶん守れると思う。それを変にプライドを持ってね、『はい、じゃあ取りに行こう』ってやったらやられると思う、いまは。俺がいた昔はやっぱり一人一人がサッカーを知ってたもん。昔の人の中盤、特に黄金世代。特に戦術はなかったけど、あの人たちが時間と相手チームとチーム状況を考えて勝ってきた。でも、いまはみんなまだ若い。裕葵も若いし町田、ワンちゃん。レオとかスンテとかやってくれる奴はいるけどポイント、ポイントで見たらポテンシャルはあるけどまだ若いし昔の方の人たちの方がサッカーを知ってた。そのなかでオレみたいな奴が声を出して粘れるところまでいけば、ポテンシャルはあるから。そっからはあいつらの技量に任せる感じはあるね」

 いつでも、どんな状況でも、相手よりも一段高いところにいて、相手を見下すように試合をコントロールし、王者の風格を見せながら勝利することができたらどんなに楽だろう。3連覇の時代は試合をすれば勝つことができた。しかし、いまはそんなチームではない。まだまだこれから成長していかなければいけないチームなのだ。

 試合をしました。がんばりました。でも勝てませんでした。

 それは鹿島では許されない。そのなかでもどうやって勝点を拾っていくのか。若い選手たちは、それを学ぶ途上にある。いまの段階で、安部裕葵が10番を背負ったからなにかできるようになるわけではない。しかし、今季を内田と共に戦うことで、チームを勝たせられるような存在になるかもしれない。どこでパワーを使うべきなのか、乾坤一擲、フルスロットルでゴールを狙うのはいつなのか、戦っていくうちにわかるようになるだろう。

 ただ、それはいまではない。もう少し先にある未来の鹿島だ。だからこそ、キャプテンとして内田は選手を守らなければならなかった。

「前節のブーイングや厳しい声というのは受け入れます。ホームだし。でも、今日の戦い方に関してああだこうだ言われるのは、僕はキャプテンマーク巻いてますけど、そこはちょっと納得できなかったんで。こうやって平日に応援しに来てくれているし、サッカーを見てくれるのはほんとにありがたい。そのなかでアウェイのサポーターが見てるなかで自分たちのサポーターにブーイングされるということは『鹿島、うまくいってないんだな』と思われてもしようがない。そこは隠してでも次に向かわないといけない。それは選手だけでなくサポーターも。そういう一個レベルの高い話しですけど、そういう関係性を築きたいな、と。僕も向かっていきましたけど、笑いながら話せるくらいの代表者が一人くらいいてくれてもいいかな。感謝してますよ。そういう声がね、若い選手のプレッシャーだったり、チームとして勝たなきゃいけないという雰囲気をつくってくれるんでね。ただ、僕はみんなを守んないといけないんで。チーム自体も、選手も。だから行きました」

 

 内田篤人はプライドの高い男だ。彼が勝点1で終わった現状に満足しているはずがない。

OKじゃないよ。俺らはアウェイでもフロンターレとかそういうチームに勝ってきて優勝してるから」

 優勝するチームになるには、勝てるようにならなければならないことはわかっている。しかし、いまはまだそこにはない。将来を見据え、そこに至るための勝点1。この1が、いつか3になることを内田は信じている。

 

 

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