デイリーホーリーホック

【HHレポート】「J1」へ――今、僕たちにできること第2回「ケーズデンキスタジアム水戸の早期改修を求める会」代表櫻井謙一さん「行動することで、何かが変わる。そう信じて」 (2013/8/30) ※全文無料公開

ライセンス問題に揺れる水戸。
その原因であるスタジアム問題を解決しようと、8月1日から「ケーズデンキスタジアム水戸の早期改修を求める署名」がはじまった。
市民の力を結集して、道を切り開くことができるか。
今回は「ケーズデンキスタジアム水戸の早期改修を求める会」代表の櫻井謙一さんに話を伺った。

とりあえず、突っ走るだけです!

――8月1日から「スタジアムの早期改修を求める署名」をはじめられました。それ以前に「スタジアムの改修を求める署名」も行っていたとのことですが、署名をはじめた経緯について教えてください。
「署名をはじめたのは今年の開幕の2週間前でした。プレシーズンマッチ鹿島戦の前日です。その時は『増設に向けた署名』でした。ただ、新聞で水戸市の『第6次総合計画』の中でケーズデンキスタジアム水戸(以下Ksスタ)の改修が盛り込まれたという話を知り、そして水戸がJ1クラブライセンスの取得を断念することを発表したことを踏まえ、『早期実現』に向けての署名に変更しました。『第6次総合計画』に盛り込まれたとはいえ、10年間の計画ということで改修がいつになるか分からない。それが僕らの焦点ですよね。早ければ早いほどJ1ライセンスが早く取れるようになる。そのために僕らは動かないといけないと思ったんです。最終的に9月末まで署名を行って、10月に市長に届ける予定です」

――目標数はあるのですか?
「『増設に向けた署名』については1万人を考えていました。草の根で行っていたので、そのぐらい集まればと考えていました。でも、今回は多くの人が協力してくれているので、目標という目標はなくなりました。とりあえず、突っ走るだけです!」

――具体的に署名はどのような形で行っているのですか?
「今までは街頭と人との数珠つなぎで行っていました。ホームページ http://mhh-supporter-project-vol2.jimdo.com/ をつくって、そこからダウンロードできるようにしました。あとはサポーターの団体さんが動いてくれて、いろんな人に告知してくれたりして、5千人ほど集まりました。第19節G大阪戦の試合会場でも行わせていただきました。それ以外には現在水戸にいる選手が以前在籍していたチームのサポーターなども協力してくれて、サッカーファミリーの輪の結束力の強さを知りましたね。G大阪サポーターの方も快く署名してくださいました。『どこだって問題を抱えているんだよ! みんなで協力していこうぜ!』って言いながら(笑)。うれしくて涙が出そうになりましたね」

――水戸サポーターだけでは限界がありますからね。
「実は水戸サポーターの中でもいろんな考えがあって、すべての方に賛同していただいているわけではないんです。一筋縄にはいかないですよね(苦笑)」

――なるほど。なかなか難しいんですね。
「今回は完全に僕が突っ走ってしまったということも原因なのかもしれません。誰にも相談せずにはじめてしまいましたから。一応相談はしたのですが……はじめる前日だったんです(笑)。昨シーズンからサポーターが動かないといけないと思っていて、いろんな人と話をしていました。ただ、署名となると話が難しい。話をしっかりまとめないといけないと考えていたら、そのまま話が止まってしまったんです。で、シーズンがはじまる前になって、とある方から『もうシーズンはじまっちゃうけど、どうするの?』と言われて、『やろう』と。『僕が責任を取るのでやりましょう』ということで、署名用紙を作成して、勝手にやりはじめちゃったんです。そしたら、5、6人が手伝ってくれました。1時間だけ街頭で行ったのですが、150人の方が名前を書いてくれたんです。関心度の高さを痛感しました。やらないとはじまらないんだなということを感じましたね。反感を買うようなやり方だったかもしれませんが、これがどんどん広がっていけば必ずいい結果が生まれる。そう信じていないとやれないなと思っていましたね」

署名をはじめて、グループは半分になってしまった

――櫻井さんがホーリーホックに携わるようになったきっかけは?
「選手寮のご飯を作ることになったのがきっかけです。お店ではなく、ウチの家族でボランティアみたいな形ではじめました。それでスタジアムにも売店を出すようになったんです。それまではホーリーホックよりもアントラーズに興味がありました(苦笑)」

――仕事としてかかわるようになって、興味を持つようになった感じですか?
「仕事をするにあたって、一度試合を見に行ったんですよ。その試合で水戸はボロボロに負けたんです。しかも、当時スタジアムは笠松で、観客も非常に少なかった。マイナスイメージからスタートしましたね。でも、仕事をやっているうちに選手たちが頑張っているのが分かりましたし、サポーターともつながりを持つようになりました。そこでサポーターが信念を持って行動していることを知ったんです。そうなると恩と義理ではないのですが、彼らのために何かできることはないかなと考えるようになりました。それが3年前ですね。それで、『レ・ブルー・水戸』というサポート団体を立ち上げたんです。立ち上げた時の理念としては『ホーリーホックが何を必要としているか考えて行動しよう』というものでした。そこに関してディスカッションして行動してきました。まずはお金を集めないといけなかった。そのために募金を行い、翌年は観客を増やすためにゲーフラ作り教室を行うなど、いろんな人に興味を持っていただくための活動をしました。そして今回ライセンス問題が出てきたんです。それで今年2月から署名活動をはじめたのですが、実はそこでグループのメンバーが半分ぐらいやめてしまったんです。『賛成派』と『反対派』に分かれてしまった。ただ、立ち止まってもいられないですから、1人でもやろうと思ってはじめました。10数人いたメンバーが4、5人になってしまいましたね」

――『反対』される方の理由は何なのでしょうか?
「なんでですかね? たぶんベクトルが違ったんだと思います。他に何かやることがあるだろうということだと思います。議題がデリケートすぎたというのもありますね(苦笑)。募金であれだけ苦労したんだからという思いはあったと思います」

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【写真 佐藤拓也】

みんなが騒げば、ムーブメントを起こせる

――サポーターが動くことの大切さについてどのように考えていますか?
「市民がお祭り騒ぎしなければ何も変わらないと思うんですよ。江戸時代の市民の力が一つになって幕府に向かっていったじゃないですか。それが大きければ大きいほど歴史も変わるんですよ。それは今も同じなんですよ。市民がワイワイやっていることをいろんな人に見せていかないと上には届かないんですよ。そういう気持ちは前からありました。2年前に募金を行って150万円を集めることができました。今回も行動することで、何か変わるんじゃないかと思ったんです。やれるんだったら、誰かにお願いするんじゃなくて、自分でやろうと。それがきっかけです」

――署名をする際、周りに相談しなかったのは何か理由があったのですか?
「はじめてやるから何をやっていいかわからなかった(笑)。それが一番の理由です。結局、最後は今までやってきた方の署名の集め方を研究してはじめました。何を誰に相談していいのか分からなかったというのが正直なところです」

――水戸という町の歴史を振り返っても、市民が動いて何かを変えたということはありません。そういう気質ゆえに難しいでしょうね。
「僕は高校を出て、大阪の専門学校に行って、それから東京で働いて、25歳で水戸に帰ってきました。外に出たら、水戸の町のそういう気質はものすごく感じましたね。そんなところも変えたいなと思っていました。それで現在、水戸の町で多くの人を一致団結させることのできるツールって何かと考えた時、水戸ホーリーホックが最も適していると思ったんです。そういうものがあるなら有効活用しないといけないですし、そういうのを求めて自分が入っていったのかもしれない。ホーリーホックがなくなったら困るんです。それはスタジアムに足を運んでいるすべての人がそう思っているはずなんですよ。人数はそれほど多くないですが、一つにまとまれば、大きな力になると思うんですよ。そういう人たちがみんなで騒げば、何かムーブメントを起こせると信じています」

――今回の署名に関しては活動に賛同する地元の企業や団体と一緒になって行われていますね。
「みなさん協力していただけるとのことで、今までコツコツやってきた活動がようやく認められたんだなと感じました」

――それまでは認められないという思いがありましたか?
「ありましたね(苦笑)。メディアを含め扱ってくれる方も少なかったですし、邪険に扱われることの方が多かったです(苦笑)。『クラブの許可をもらっているの?』と聞かれることが多かったのですが、クラブだってなかなかOKを出すわけにはいかないですから、『いや~』としか返答することができなくて。それで「早期改修を求める署名」になってからはクラブ側もOKを出してくれたことが大きかったですね。それによって活動が広がることとなりました」

――僕らメディア側としては、署名を行っているのは分かっていましたが、どこまで本気で行っているのか分からなかったため、なかなか扱うことができませんでした。今回に関しては、会見時に沼田邦郎社長が話に出しましたし、クラブとして認めるようになったことで、取材することができるようになりました。
「草の根運動はやりつくしたので、今年の6~7月ぐらいに『どうにかしたい』と考えていました。署名の数が少なくてもいいと思っていて、お祭り騒ぎがどのぐらい広がるかということだけを期待していたのですが、『第6次総合計画』が出たことによって、クラブとしても協力できるとのことだったので、正式にライセンスが交付されるまでの最後の2ヶ月間一緒にやりましょうということでスタートしました」

――現在の活動状況はどうなったのですか?
「8月1日から『ケーズデンキスタジアム水戸の早期改修を求める会』を発足しまして、そこにご賛同いただいた地元の企業や団体の方に入っていただきました」

――企業のバックアップがあると信頼度が上がりますね。
「そうなんですよ! 僕が代表をやっていていいのかと思うことも多々ありますが(笑)。なんか申し訳ないなと思いながらやっています(笑)。ただ、いろんな人が興味を持ってくれるようになりましたし、期待してくれていると感じています」

サポーターレベルで考える、いいきっかけになった

――今回の件は水戸ホーリーホックの「市民クラブ」としての価値を問われている機会だと思うんです。
「僕は4年前にホーリーホックの仕事に携わるようになったのですが、そのころと比べて、周りの人たちの認知度は間違いなく広がっていますよね。お客さんでも興味を持ってくれる人が増えていて、しかも興味の持ち方が変わってきたんですよ。以前は『ホーリーホックの調子はどうなの?』という人が多かったのですが、最近は『チケットはどこに行けば買えるの?』みたいな感じになってきているんです。こんなに知名度が上がってきているのだから、この問題はみんなで乗り越えようよという気持ちにもなってきたんです。4年前、Ksスタに移転した時からこの問題が起きるのは分かっていたはずなんですよ。でも、誰もが見ないようにしていた。問題が何なのかを多くの人が知るいい機会になれば、やったかいがあると思いますし……でも、そこまでは考えていないかな(笑)」

――問題は客席数ですが、それ以外にも何かあるのですか?
「やはり客席数を増やすためにも、観客を増やさないといけないんですよ。あとは順位の問題もある。それはクラブや選手が頑張らなければいけないといけないのですが、僕らが関心を持って、その問題に真剣になって束になって取り組むことが大事だと思うんですよ。サポーターが騒がなければ、ムーブメントは起こせないんですよ。クラブが働きかけて、行政などが動いてくれればそれでいいのでしょうけど、でもそれでは本質的な点は変わらないと思うんですよ。次のステップに進むためにもサポーターが問題に対してどう向き合うか、どう動くかが重要だと思うんですよ。たとえば、『レ・ブルー・水戸』では観客数を増やすために、はじめてスタジアムに来る方に対して、ゲーフラの作り方を教えたりしました。僕らのやってきたことは微々たることですが、観客数は着実に増えてきたわけですよ。そうした時に今回のライセンス問題が起きることとなったんです。もうね、『水戸でJ1見たくない!?』の一言に尽きると思うんですよ。真剣にこの問題に立ち向かうことで、変わると思うんですよ。僕だけじゃなくて、他の人もいろいろ考えて行動していますし、サポーターレベルでいろいろ考える、いいきっかけになったと思いますよ。今もサポーターのコールリーダーとも話をしています。もっといろんな人を巻き込むことをやっていこうと。チャントをYOUTUBEでチャンネルを作って流したり、そういうことが僕らに求められていることなんだと思います」

――櫻井さん1人でスタートした活動が大きくなったわけですが。
「これだけ大きな企業さんが手助けしてくれているので、もう充分ですよ。今までこんなことがなかったから、正直僕が一番びっくりしているんですよ~。こうやって取材を受けるなんて、滅相もないと思いながら(笑)。事態はトランプの大富豪で革命が起きて、天地がひっくり返っている状態です(笑)。今までヒール役だった僕が、本線になってしまって(笑)。どうしよう~というのが正直な思いです(笑)。やるしかないけど、何をやればいいのっていう感じです」

――これから『署名』を行おうと思っている方に向けてのメッセージをお願いします。
「名前を書いていただけるだけでもありがたいのですが、それで物足りない人は一緒に活動したいですね。多くの人が集まってこそサポーターですから。市民が何かを変えることって素晴らしいことだと思うんですよ。このクラブのためにできることを考えて、どんどん行動に起こしていくべきだと思います。今は本当にこのクラブのターニングポイントだと思います。このクラブが必要なのかとか、水戸市にプロクラブが必要なのかとか、そういった問題が今回の件に凝縮されていると思うんですよ。スタジアム改修ではなくて、別の施設を作った方がいいかもしれない。でも、それよりもスタジアムを改修した方がいいということを我々が示していかないといけない。そのためにも市民の声が必要なんです。アクティブに動けるところは動いて、表現できることは表現していかないといけないですよね。みんなで力を合わせて活動していきましょう!」

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【写真 佐藤拓也】

(取材・構成 佐藤拓也)

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