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「女性審判員は男性審判員よりも能力が劣る」という誤解 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】女性審判員の山下良美さんがJ3リーグのYS横浜対宮崎戦で主審を担当

女性審判員の山下良美さんがJ3リーグのYS横浜対宮崎戦で主審を担当しました。J 1、J2、そしてJ3リーグで女性が主審を担当するのは初めてです。1993年5月15日に開幕したJリーグは、2021年5月15日で29年目に入りました。その翌日に、歴史の1ページが塗り替えられたことになります。

山下良美さんは、Tokyo2020(東京五輪)サッカー競技の審判団に指名されている、日本で最も著名な女性審判員の一人です。FIFA女子ワールドカップフランス2019のラウンド16・ドイツ女子代表対ナイジェリア女子代表で主審を担当する等、その実力は、世界で高く評価されています。

山下良美さんが、男性の試合の主審を担当するのは、今回が初めてではありません。国際試合では、AFCカップ(男子)のヤンゴン・ユナイテッド(ミャンマー)対ナガ・ワールド(カンボジア)で主審を担当しています。国内でも、既にJFLや天皇杯で主審を担当しています。

ビッグマッチの担当も、先行している海外の事例

海外では、多くの女性審判員が男性の試合を担当しています。世界最高峰の大会であるUEFAチャンピオンズリーグでも2020年に初めて女性が主審を担当しています。ステファニー・フラパールさん(フランス)です。ステファニー・フラパールさんは女性審判員として初めてリーグ・アンの主審を担当し、リーグ・アンの歴史にも、その名を残しています。FIFA女子ワールドカップ フランス2019では決勝戦のアメリカ女子代表対オランダ戦女子代表で主審を担当しています。

先駆けともいえるビビアナ・シュタインハウスさんは2020年に第一線から退きました。最後に主審を担当したのはDFBスーパーカップ(男子)バイエルン・ミュンヘン対ボルシア・ドルトムントでした。ビビアナ・シュタインハウスさんは、日本ではFIFA女子ワールドカップ・ドイツ2011決勝戦・日本女子代表対アメリカ女子代表の主審を担当したことでも知られています。そんなビビアナ・シュタインハウスさんですが、2018年には判定をめぐり、ファンから過剰な誹謗中傷行為を受けたことでも話題になりました。

多くの人が誤解してきた

日本では多くの人が「女性審判員は男性審判員よりも能力が劣る」と考えています。「プレナスなでしこリーグで誤審が頻発」と信じ込んでいる人もいます。中には、なぜか「日本の女性審判員は海外の女性審判員より劣っている」と主張する人までいます。「味の素フィールド西が丘で女性副審がスローインなのにオフサイドの旗を上げた」という伝説も伝わっています(実際は、スローインの一つ前のプレーの反則を知らせる旗でした)。判定に対して根拠のない野次が飛ぶこと、ネット中継のチャットに「判定が間違っているから教えてやった」という、自慢話が書き込まれることも珍しくありません。女性審判員は、サッカー場に横行するミソジニー (女性に対する嫌悪や蔑視)のターゲットにされやすい現実があります。

筆者は、審判アセッサーのすぐ近くの席で、プレナスなでしこリーグの試合を取材したことがあります。一つの試合の中で、何度かは、スタンドのファン・サポーターが判定に不満の声をあげることがあります。その試合では、驚いたことに、そういったシーンで、審判アセッサーは無反応でした。その判定は正しい、もしくは誤っているとは断言できない様子でした。逆に、スタンドが無反応なアドバンテージの取り方や試合のリスタート方法に審判アセッサーは反応しており、スタンドのファン・サポーターの解釈と実際の判定ミスとの大きな乖離を感じました(審判アセッサーがどのような反応をしたのかは、ここでは省略します)。

こうした、誤った思い込みの積み重ねから「女性審判員は男性審判員よりも能力が劣る」という誤解がファン・サポーターの中に蓄積されてきました。しかし、実際は、男女の筋力の違いがほとんど影響しない審判員に、男女の優劣があるわけがありません。山下良美さんは、J3リーグで女性が主審を担当することで、それを証明してくださりました。

これが当たり前であるべき

多くの審判員は、深くサッカーを愛しています。その情熱は選手に勝るとも劣らないものがあります。選手、指導者、ファン・サポーター、関係者そして審判員が一緒に、サッカーの新時代を創っていければと思います。そして、女性審判員が男性の試合の主審を担当することが、特別ではない日が早く到来することを願います。

(2021年5月16日 石井和裕)

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