「川崎フットボールアディクト」

【対談】”中村憲剛”を描き出すということ「書いていて苦しくなって、彼の苦しみを追体験しているような感じになってしまって」(飯尾篤史×江藤高志)


■”選手本”にはしなかった
江藤「この本のミソになると思うんですが、選手の一人称の形式にしても書くことはできましたよね? そうではなくて、王道のノンフィクションの手法を使った理由は何ですか?」
飯尾「その方が絶対、おもしろいと思うからです」
江藤「客観的な視点があった方が、という」
飯尾「そうですね。彼の想いだけでなく、僕の視点が交わり、奥さんの加奈子さん、ジュニーニョ、(伊藤)宏樹くん、フロンターレの選手たち、代理人の大野祐介さんとか、通訳の矢野大輔さんにも話を聞いていますし」
江藤「ああ、大野さん。移籍に関する部分は多分、知らないことも多いと思うから、読者の方も興味深いでしょうね。あと、相馬(直樹)さんが出てきたのには驚きました」
飯尾「相馬さんとも長く付き合わせていただいているので、監督だった当時もそうですけど、今回改めて話しを聞かせていただいています。もちろん、それをすべて書いているわけではないですけど。やっぱり、選手の一人称で書くより、厚みのある物語になると思うんですよね。それがどこまで成功しているかは自分では分からない。ただ、中村憲剛というサッカー選手に僕が見たプロアスリートの生き様というか、生き方を描きたかったんです」
江藤「いや、それでいいと思いますよ。フロンターレのサッカー選手というよりは、興味深い人生を歩いてきた、ひとりの男として描かれている。フロンターレサポーターは確実に手に取るだろうけど、それ以外の人がね。現役サッカー選手とか、現役の指導者とか、感じるものもあるでしょうし」
飯尾「例えば、レッズのサポーターがこの本を読みながら、『うちの(鈴木)啓太も苦しんでいたんだろうか』とか、サンフレッチェのサポーターが『うちの青ちゃん(青山敏弘)はどうなんだろうか』とか、『うちのナオ(石川直宏)は』『うちの(小笠原)満男は』って重ね合わせてくれたらいいなとも思います。クラブに忠誠を誓いながら、試合に出たり、出られなかったり、あるいは移籍を考えたりとか。日本代表から外されて、それでもクラブはあるとか。そういうことが、どのクラブのバンディエラにも起きていると思うんです、それぞれ違った形で」
江藤「そうだね。業界としても、ぜひ売れてほしいですね。ノンフィクションって手間がかかるし、売れないって言われているけど、でも、そこにマーケットができてくれると、僕らも取材ができるしね」
飯尾「だから、スポーツライターがノンフィクションを書くという機運が高まるといいなと思っていて。出版社もライターも、もう1回チャレンジしましょうよ、スポーツノンフィクションに、という」

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