「ゼルビアTimes」郡司聡

【コラム】天皇杯全日本選手権4回戦・浦和レッズ戦/MF 6 リ・ハンジェ『サッカー人としてのリスペクト』

▪︎天皇杯全日本選手権4回戦11月11日(水)19:00キックオフ
熊谷スポーツ文化公園陸上競技場
FC町田ゼルビア vs 浦和レッズ

DX2B0500 (1)©FC町田ゼルビア

▼広島での出会い


プロ15年以上にも及ぶキャリアの中で、衝撃を受けた指導者の一人が現在、浦和レッズを率いているミハイロ・ペトロヴィッチ監督だという。2001年から2009年までサンフレッチェ広島に所属していたリ・ハンジェは、06年に紫熊のクラブでペトロヴィッチ監督と出会った。

ペトロヴィッチ監督が標榜するサッカースタイルのキーワードは、『可変システム』。1トップ2シャドーを金看板とした[3-4-2-1]システムをベースに、攻撃時にはダブルボランチの一角が最終ラインに下りて、ビルドアップに参加。3バックの両CBはワイドに開いて、SBのような役割を果たし、リベロはボランチの一角とともに4バックを形成する。そして両CBがSBのポジションを取ることで、前に押し出される格好となる両ウイングバックは、ウイングのように前線に張り付き、1トップ2シャドーとともに前線は5枚になる。

攻撃時は[4-1-5]、守備時には両ウイングバックが最終ラインに吸収される傾向が強いため、[5-4-1]へと姿を変えるーー。そんな“可変システム”が持ち味の“ミシャ・スタイル”に取り組んだリ・ハンジェは、「慣れるまでに時間がかかるし、それまでやってきたサッカーと180度違った」と話すほどの衝撃を受けた。

「このサッカーをやれば自分自身も成長できるという実感があった中でプレーしていた。残した功績は大きいし、それまで広島は守備的なチームだったけど、彼が来たことで攻撃的なチームに変わった。ミシャは攻守にバランスの取れたチームを作る。(彼が率いるチームは)美しいサッカーをできる数少ないチームの一つだと思う」

それはサッカーの概念が変わるほどの衝撃度だった。

 

▼衝撃の言葉

 

忘れられない言葉がある。某日、ペトロヴィッチ監督に呼ばれたリ・ハンジェは、こう言われたという。

「ハンジェ、お前の技術は間違いない。しかし、問題点はメンタルだ。好不調の波が激し過ぎる。メンタルを鍛え直さないと、上ではやっていけないぞ」

“自分の持ち味はメンタリティー”と自己分析していたリ・ハンジェにとって、それは意外な他者からの評価だった。それを聞かされたときは到底、「受け入れることはできなかった」。しかし、あれから時が経ち、今ならば彼が言っていたことも理解できる。

「『問題はメンタルだ』と、日本人監督には言われたことがなかったので、そのときはなかなか受け入れられなかったけど、いま思えば、ミシャがそう言っていたのは人間としてもいろいろな部分を見てくれていたんだと分かる。彼の下では試合に出たり出なかったりだったけど、そのとき、もう少し謙虚な学ぶ姿勢があれば、もっと彼の下で試合に出られたんじゃないか。信頼して使ってくれた監督だったし」

町田のチーム主将は、天皇杯予選にあたる東京都サッカートーナメントから天皇杯3回戦までの5試合すべてを欠場しているため、これまでの例にならえば、天皇杯4回戦・浦和戦の試合出場は叶わないかもしれない。それでも、リ・ハンジェはかつての指揮官への思いを馳せた。

「ミシャさんには『ハンジェはいつも私に不満を抱えている』と思われているタイプだったかもしれない。でも、人間として尊敬しているし、サッカー人として、再会できることを楽しみにしている」

Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)

【プロフィール】
リ ハンジェ(李 漢宰)
1982年6月27日生まれ、33歳。岡山県倉敷市出身。173cm/68kg。広島朝鮮高級学校→サンフレッチェ広島→コンサドーレ札幌→FC岐阜を経て、2014シーズンにFC町田ゼルビアへ加入。J1通算92試合出場5得点。J2通算114試合出場3得点。J3通算61試合出場4得点(2015年11月10日現在)。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ