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★無料記事【ユナパな話】VOL.1「滞空時間のナゾ」1,268文字(取材・構成:西部謙司)2015/9/18

 ヘディングの競り合いでジャンプする時、空中で止まっているように見える選手がいる。この空中に浮いている時間は滞空時間と表現される。

 ところが、空中に止まっていられる人間は物理学的にはいないそうなのだ。ジャンプした後は上がっているか下がっているかであって、同じ跳躍力で同じ体重なら空中にいられる時間にも差はないという。けれども、われわれが実際に目にするのは、そうではない。明らかに選手は空中で止まって見える。

「止まっている感じはありますね」(金井貢史)

 金井は滞空時間の長い選手だ。ずいぶん早いタイミングで跳んだなと思っても、空中でボールが到達するまで待っていられる、すぐに落ちない。普通の人ならとっくに落下しているはずなのに依然として空中にいる。物理学的にはありえない、錯覚であるはずだ。しかし、本人に聞いても「止まっている」と言う。

「意識はしていないですけどね。相手より先に跳んでいるのは確かで、空中で止まってボールを待っている感覚ですね。うん、止まってますね」(金井)

 もう1人、滞空時間の長いタイプである松田力にも聞くと……。

「止まっている感じはあります。意識して止まっています」(松田)

 本当に止まっているのか、それともそう感じるだけなのか? 空中で止まって見える原因として考えられるのはジャンプ力の差だ。高く跳んでいるから落ちるまでの時間が長くなり、止まっているように見えるというわけだ。

「垂直跳びとか測ったことないので……。幅跳びは普通ですよ」(金井)

 もう1つ考えられるのは体の使い方。マイケル・ジョーダンのようなバスケットボールのスーパースターは、跳ぶ時に体を縮めていて、落下する時に背骨を伸ばすのだそうだ。本当は落ちているのに頭の位置が変わらないから浮いているように見えるとか。

「体の使い方じゃないですか? 相手より先に跳ぶと、下から相手が押し上げてくれる時もあるので、それで止まって見えるのでは」(松田)

「かなり足を曲げて跳びます」(金井)

 空中戦に強い選手にも2種類あって、幅で競る選手と高さで競る選手がいる。

 幅で競る選手は、ジェフでいえばキム・ヒョヌンが典型で、高くジャンプするというよりも落下点に相手を入れない。名古屋グランパスの田中マルクス闘莉王もこのタイプだ。体が大きくて肩幅があり、体の幅を使って相手をボールの落下点から排除するので高さはそれほど関係がない。

 金井と松田は高さで競るタイプだ。相手より先に跳んで制空権を握り、空中で待機してボールをたたく。純粋な高さというより、先に跳んで相手の上にいることで相手のジャンプの力も利用して空中に滞在する……。ただ、やっぱり止まって見えるんだよな。感覚的には見ているほうと同じで、本人も「止まっている」と言う。物理学のほうが間違ってないか? というより、重力の理解がないだけなのか。アインシュタインによれば重力は「時空の歪み」だそうだ。ダメだ、もう分からん。

 結局、滞空時間のナゾは「よく分からない」ことが分かっただけだった。あとは、皆さんが自分の目で見て判断してください。

松田力

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