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【DAILY SIGMACLUB※無料】編集者の日常/僕は待つ。待ち続ける。

考えてみれば、僕はずっと、待ち続ける生活を続けている。

ありがたいことに、広島が報道陣に対してトレーニングをずっと公開(新型コロナウイルスに対する局面が変わればサポーターにも公開するようになるはず)してくれていることによって、練習の取材が続けられている。選手のコメントにしてもソーシャルディスタンスを保った上での直接取材が許されているので、たくさんの選手に話が聞ける。本当に嬉しい。

ただ、サッカーの取材は、例えば企業やビジネスマンへの取材とは大きく異なる。普通の企業取材などではしっかりとアポイントをとり、14時の約束であれば前後5分間くらいの誤差でほぼ時間通りにスタートする。しかし、サッカーは違う。優先されるのは選手のスケジュール。グラウンドでのトレーニングは約2時間くらいで終わるが、そこから個人トレーニングもある。外でボールを蹴り続けている選手もいれば、クラブハウスの中で筋肉トレーニングを続ける者もいる。トレーナーに治療を受けたり、監督やコーチと個人面談を受ける選手もいる。それがいつまで続くかは、広報担当にもわからない。インタビューのアポイントをとる時に「練習後」と指定されることが多いのは、全てが選手ファーストで動いているため、時間指定が困難になるからだ。

SIGMACLUBでロングインタビューを行う時は、選手と向かい合って座りながら進めることが多い。その時には「シャワーを浴びたらすぐにやると言っています」とか「食事あとでもいいですか」とか、広報担当が伝えてくれる。ただ、「何時にスタート」とまでは言ってくれない。わからないからだ。だからとにかく、僕は待つしかない。万全の態勢で選手が取材現場に現れてくれるまで、ひたすら待つ。当然、ロングインタビューがある時は、他の取材や約束は入れられない。何時に終わるか、見当がつかないのだから当然のこと。

ロングインタビュー以外でも、僕は待たねばならない。通常の取材は練習から引き上げてきた選手がクラブハウスに戻ってきた時に声をかけ、取材エリアに来てもらうわけだが、選手によってそのタイミングはまちまちだ。ベテランやブラジル人選手はコンディション調整を優先して個人トレーニングは行わずに戻ってくることが多い。でも林卓人や青山敏弘のようなトレーニングの権化はずっとボールを受け、蹴り続ける。たとえば昨日、最後まで練習場に残っていたのは林卓人だった。そんなベテランの姿を見て育っているから、広島の若者たちもよく練習する。昨日でいえば、林卓人の次に練習場で残って練習していたのは、例えば藤井智也であったり、例えば鮎川峻だ。

そういう選手たちの話を聞きたいと思うならば、彼らの様子を見ながらずっと待ち続けるしかない。しかも、待っていても必ず記者の前に立つわけではなく、彼らのスケジュール次第では「すいません」と断られる場合もある。サンフレッチェ広島の選手たちは基本的に取材に対しては真摯で、きっちりと真面目に対応してくれるが、それでも優先されるのはトレーニングだし、コンディションである。そこは受け入れるしかない。

とにかく、僕は待つ。待ち続ける。選手の想いをサポーターに届けるために。チームの情熱をサポーターにわかっていただくために。待ち続けることで、自分がやるべきことを全うできるのであれば、何の問題もない。実際、ずっと待ち続けたことで、選手から想像もしなかった言葉を引き出せた経験もある。

そういう生活をもう25年も続けている。きっとこういう仕事が、僕に対して神様が命じた定めなのだろう。

(了)

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