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「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第15回 大河の一滴(2016/12/22)

第15回 大河の一滴

「死んだ人はみんな言葉になるのだ」と言ったのは、劇作家の寺山修司だった。演劇、映画、小説、詩、さまざまなジャンルで活躍した文芸の巨人である。『書を捨てよ、町へ出よう』、『馬敗れて草原あり』(ともに角川文庫)。僕は寺山の書くものが好きで、浴びるように読んだ時期がある。十代から二十代前半にかけての頃だった。

寺山がこの世を去り、二十数年の歳月が流れている。サッカークラブに人生を捧げるような生き方をした人は、死んだらどうなるのかなと僕はぼんやり考える。

その話題が出たのは、シーズン終盤、メディア関係者の集まる飲み会の席だった。「ユースの写真をよく撮っていたサポーターの方が亡くなったみたい」。ひとり、思い当たる人がいた。ひとりしか思い当たらなかった。

のちに、知り合いのサポーターから教えてもらい、亡くなったのが北條輝和さんだと僕は知ることになる。享年44歳。10月15日未明、自宅で急病により死去した。

そもそも僕は名前すら知らなかったのだ。年齢も、連絡先も、どんな仕事をしているのかも知らない。今年になってからいつの間にかランドで言葉を交わすようになって、僕がカメラのことを訊いたり、ユースの話で盛り上がったり、懸念される出来事に困ったもんですねとふたりして黙り込んだりした。いつもサッカーの話で忙しく、ほかのことを話しているひまがなかった。

最後に会ったのはいつだったか。10月10日、Jユースカップ1回戦、水戸ホーリーホックユース戦のあとだった。北條さんはBチームの練習試合を撮影していた。誰も気を留めなくなったピッチに、ひとりだけカメラを向けていた。

そのとき、僕との会話といえば、

「そのレンズ、でかいっすね。F値は?」

「2.8。あ、でもテレコン(テレ・コンバーター。望遠距離が伸びる)かましてるから、ちょっと暗くなります」

「それでも明るいなあ。おれの機材だと、夕方以降はシャッタースピードが稼げなくてつらい」

「こんな感じですね」

「おお、バッチリ撮れてますな。被写体ブレもない」

と、心底どうでもいい内容だった。

チームは、観客の呼吸と重なり合うことで光り輝く。ユースの試合は、その傾向がさらに強い。睦まじい時間と空間の、あたたかい持続がある。北條さんはファインダー越しに、チームと呼吸していたんだと思う。

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