「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】シリーズ新加入〈10〉 MF35 藤本寛也(18.2.22)

シリーズ新加入〈10〉 MF35 藤本寛也

昨年、クリスマスの少し前、ランドの人工芝グラウンドに、藤本寛也と田中颯の姿があった。ふたりは東京ヴェルディユースの活動を終え、藤本はトップに昇格し、田中は関西の大学へと進学する。

だだっ広いグラウンドにふたりだけ。僕はそれを遠目に見、せっかくだからとシャッターを何枚か切った。

ピッチの中央でボールを蹴り合っていた彼らは、やがてシュート練習に移る。藤本がちょんとボールを動かして左足を振り、田中が反応鋭く跳びつく。こうやって数え切れないほど蹴る、止めるを繰り返し、切磋琢磨してきたのだろう。僕は、同期のふたりの間に流れた膨大な時間を想像する。

またここで逢おう、とは言葉にしないシュート練習。藤本は短い振りで、ボールを強くはじく。また、時にはいやらしいところでワンバウンドさせ、ボールは田中の手の先を抜けてネットを揺らした。

シュートの威力、コースは当然重要だが、肝心なのはキーパーの待ち受けるタイミングを外すことか。互いに勝手知ったる仲だ。工夫がなければ、シュートはネットに到達しない。

藤本は言う。

「意識しているのは、振りの速さ。バウンドさせる位置やタイミングなどはそこまで深く考えてないですね。基本は、強いボールを狙ったコースに打つこと」

とすれば、唐突なタイミングで放たれ、相手に気取られないパスも無意識の領域なのかもしれない。藤本の足元からはほんの小さな挙動で、長いスルーパスが出てくる。

今年、ユースからのトップ昇格は藤本のみ。同期や後輩たちの期待を一身に受ける。

「自分に求められているのは、崩しのスルーパスやラストパスなどの決定的な仕事。ロティーナ監督からは常に遠いところを見るように言われています。遠いところを見たうえで、近距離のパスを使っていけと。ポジションは、インサイドハーフ、あるいはウイングか。昨年から練習でウイングをやることが何度かありました」

視野の広さは藤本の特長のひとつである。そこを見込まれての要求に違いない。

チームが始動してすぐ、右太もも裏の筋肉系トラブルを発症し、沖縄キャンプはリハビリに費やした。12日から全体練習に合流し、直近のトレーニングマッチではおよそ70分プレーしている。コンディションは上昇一途だ。

「東京に帰ってきてからJクラブと2試合やって、それほど大きな差があるとは感じませんでした。自分にとって初めての経験だったので、もっと力の差を見せつけられるかと予想していたんですけどね。今季、数字的な目標は立てませんが、できるだけ多くの試合に出て、ゴールに直結するプレーでチームに貢献したいです」

 

◎藤本寛也(ふじもと・かんや)
1999年、山梨県生まれ。175センチ、67キロ。 東京ヴェルディユース‐東京ヴェルディ。U‐15日本代表から各年代のナショナルチームに選出される俊英。パスセンスに長けたレフティで、今年、ユースから唯一のトップ昇格選手となった。

冬の日、藤本寛也と田中颯は心ゆくまで自主練を行った。

冬の日、藤本寛也と田中颯は心ゆくまで自主練を行った。

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