「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料記事】【プレイヤーズコラム】栃木SC 純粋なる苦労人ストライカー大石治寿「僕は、栃木を助けたい」

純粋、純朴。そんな印象を受けてきた。
最近、インスタントジョンソン スギ。さんが始められた栃木SC公式チャンネル内の大石をみても、無口で、朴訥な印象だ。

慣れていないのもあるだろうが、サッカーのこと以外はどう言葉で表現したらいいのかわからないのだと思う。その意味で間違いなく不器用でもある。

「アマラオは、DFの影と音を感じてプレーしろ、っていうんですよ。すごい感覚だなって」
「藤枝時代のコーチに加藤知弘さんという人がいて、お前はゴールとサッカーをするんだ、というんです。なるほどなあ。面白いなあと思って」

大石の体温が急激に上がるのはストライカーに絡む話をしたときだ。プレシーズンのキャンプ期間中、僕がかつて栃木に在籍したJ2最多得点記録ホルダーのストライカー大久保哲哉が考えていたことを話したとき、大石は目を輝かせながら聞いていた。

純粋に、まっすぐに、ストライカー道を極めようとする姿勢が伝わってくる。ただ純粋に、もっとゴールが奪える選手になりたいのだ。

大石は2014年に藤枝に加入してからもしばらくはアマチュア契約の選手だった。
時給の介護職で日銭を稼ぎ、何とか生計を立てながらサッカーで上を目指していたのがわずか2年前の話。クラブのフロントから「99.9%、プロ契約に変わることはない」と言われながらも諦めずに結果を残し続け、プロ契約を勝ち取った過去がある。

純粋なる、苦労人――。大石が辿ってきた険しい道を、藤枝の選手たちは十二分にわかっている。3節藤枝MYFC戦はそれが覗い知れる古巣戦でもあった。

81分に今季初ゴールを決めた直後、大石は上形洋介と交代となったが、このとき、藤枝の主軸、昨年まで大石とともに戦った越智亮介が、大石の栃木の今季初ゴールを祝福するように近づいて声をかけながら、大石を早く交代させて時間を消費させまいと背中を押すシーンがあった。その行動とは裏腹に、越智の表情はすごく嬉しそうだった。

藤枝時代、大石が絶大な信頼を置いていた藤枝のキャプテン福王忠世は、センターバックとして大石とマッチアップした試合後にこう話している。

「ツグ(大石選手)にやられたくないと思っていましたし、こういうときはこうしてくるんだろうな、というのはある程度わかっているし、それをツグがどう乗り越えてくるのかをすごく楽しみにしていました」
「変な話10点奪われてもツグには1点も取られたくなかったんですけど(笑)、とられてしまったのは残念です。ゴールシーン以外はほとんど抑えていたと思うんですけど、そのなかで仕事するのはストライカーだと思いますね」

悔しさを口にしながら、大石を語る福王もやはり表情がすごく柔らかかった。
そして、願いを込めるようにこう続けた。

「ツグが今後もっと上にいけることを期待しているし、栃木のなかでもっと地位を確立して、周りの選手にどういう選手なのかをもっと理解してもらえれば、本当に上にいく力はある選手なので頑張ってほしい」

愛されてきたのだと思う。そうしたくなる何かが大石にはあるのかもしれない。

「僕は、栃木に、このチームを助けるために、助けられると思って来ました。去年、皆さんは悔しい思いをしていると思います。僕は、栃木を助けたいと思います! これからも僕たちの背中を押して、力を貸してください! よろしくお願いします!」

応援する者たちの心にまっすぐに突き刺さる、見事なヒーローインタビューだった。そして大石の純粋さ、内に秘めたものが伝わるそれだった。

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