後藤勝責任編集「トーキョーワッショイ!プレミアム」

【新東京書簡/無料公開】第四十八信『やっぱり大豊作の95年組』海江田

 
第四十八信『やっぱり大豊作の95年組』

東京ヴェルディユース95年組の山口陽一朗。キリッとしちゃって、見違えたよ。

◆クラブ史上まれに見る大豊作の世代

 後藤さん、こないださ、うれしいことがあったよ。

 ちょっくら煙草でも吸ってくるかとクラブハウスを出たら、玄関の外にいたスーツ姿の青年に名前を呼ばれた。

 誰だ。どっかで会ったような気がするけれど、思い出せなかった。もともと人の顔を記憶するのが不得意なうえ、加齢による機能低下が著しい。とりあえず、話を合わせて時間を稼ごうかとしたところ、相手が察しよく名乗ってくれた。

「こんにちは、山口です!」

 なんだ、東京ヴェルディユース95年組の山口陽一朗かい。こっちは顔よりも全体のシルエットで憶えているから、スーツ姿だと全然わからなかった。以前はふにゃっとした印象だったが、ずいぶんとシャッキリしている。

 95年組はクラブ史上まれに見る大豊作の世代だ。高木大輔(レノファ山口FC)、菅嶋弘希、澤井直人(ACアジャクシオ)、安西幸輝(鹿島アントラーズ)、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)の5名がトップに昇格し、長谷川洸が日体大を経て今季加入。ジュニアユースから流通経済大柏高に進んだ青木亮太(名古屋グランパス)もこの世代である。

 ジュニア時代、全日本少年サッカー大会、ダノンネーションズカップ、チビリンピック、バーモントカップの4大タイトルを総なめにし、以降も順調に育っていった点で特異性の高さが際立つ。当時のジュニアを率いていたのは永田雅人監督。ご存知、日テレ・ベレーザの監督就任1年目から2冠を達成し、目覚ましい成果を挙げている指導者だ。彼らを早枯れの才能に終わらせなかった背景がきっとあるのだろう。

 青赤ユースウォッチャーの人たちにはなじみが薄いか。その頃はカテゴリーが入れ違っていたから対戦の機会はほぼなかった。

 山口は中央大に進み、卒業後のプロ入りが期待されたひとりだった。ボールの動かし方がめっぽう巧く、ゲームをつくれるボランチ。ボールを受けるときの角度のつくり方、放すタイミングといった繊細な技術で勝負する選手だった。その山口を、ユースを率いていた冨樫剛一監督は全幅の信頼を置いて使っていた。

◆クラブを外から支えるひとりに

「周りとはフィジカルの差があって、サッカーのスタイルも違う。そのあたりはなかなか難しかったですね」

 山口の話は大学サッカーの世界に飛び込んだほとんどの選手が直面することだ。巧さで勝負するなら他を圧倒するくらい図抜けた力量を発揮しなければ、試合に出ることすらままならない。味方とあうんの呼吸でボールを受け渡し、「いくら相手が強くても、ぶつからなければ済む話でしょ?」とうそぶくにはそれ相応のチームのビジョンが必要だった。そこにあるのは良し悪しではなく、求められるプレーモデルの違いである。

 山口は大学5年生を半期で終え、10月から都内の大手保険会社に勤務しているという。ピカピカの新卒社会人だ。

「就職すること自体は大学に入った頃から頭にはありました。ずっとサッカーをやってきて、そっちの可能性を見てみるのも面白いのかなあと」

 そこに本当の気持ちがどの程度含まれているのか、おれにはわからない。ただ、きれいさっぱり振り返るには、もう少し時間があったほうがいいのだろう。

「今日は田村(直也)さんと会うためにきたんです。社会人になった自分が、外からヴェルディのために何かできることはないだろうかと思って。田村さんに相談したら『とりあえず、メシいくか』と誘っていただきました」

 聞いた? 後藤さん。もっかい言うわ。「外からヴェルディのために何かできないか」だってよ。

 妻からは冷血人間と罵られ、4、5年ぶりに涙がちょびっと出たのが映画『リズと青い鳥』のエンディングというおれでも、胸にじわっとあたたかいものが広がった。

 だいたい、山口はそんなことを言いだすタイプには全然見えなかった。プレーヤーとして感覚的な部分を大事にしていて、こだわりが人一倍強く、自分だけの世界観を持っているような。同世代がバリバリ活躍するのを横目に見て、内心は複雑な思いもあるだろうに、こういった働きかけはそう易々とできることではない。

 アカデミーで育った選手には、たとえサッカーで成功する道が閉ざされても、元気でやっていってほしい。これは応援するクラブを問わず、誰もが思いを同じくするところに違いない。トップのダービーマッチとなれば、相手をギタギタのズタズタにしてやれと青天井に残酷になれるが、育成年代の選手は別。少なくとも、青赤小僧であれサッカーを嫌いになって去っていってほしくはない。

 今回、たまにはクラブ自慢をしたいなと思ってさ。うちにはこんなナイスガイがいるぜ。どうだ。

『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗

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「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
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「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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