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こんなにおもしろい“ゲーム”はない。4点差をつけて勝とう。【J1第33節「FC東京 vs. 浦和レッズ」第2報コラム~J1第34節「横浜F・マリノス vs. FC東京」に向けて/無料公開】

 

今シーズン最後の味スタは最高の雰囲気でした。日産でもともに戦いましょう。 © Ayano MIURA


 J1第33節で浦和レッズと引き分けたことで、FC東京の優勝はかなり厳しくなりました。
 試合が終わった直後の橋本拳人はこの結果を受け容れることが難しそうな様子で、考え込むようでもありました。でもミックスゾーンにあらわれたときの彼は心の整理がついていたようです。
 アカデミー卒のなかで最年長の三田啓貴は「サッカーはほんとうに何が起こるかわからない。ロッカールームでもチーム全員諦めていないし」と言っていましたが、そうした雰囲気のせいもあったかもしれません。
 
 この空気をつくることができた一因には、長谷川健太監督の存在があると思います。共同記者会見で確かめたところでは、選手たちには試合後「すばらしい今シーズンのチームだった。最後、有終の美を飾ろう」と、声をかけたそうです。
 
 その同じ会見で、長谷川監督がなんと言ったと思いますか?
 
「選手はほんとうに100%を出してやってくれました。勝てなかった部分については監督の力量のなさだと思います。もっともっと選手の能力を引き出さないといけなかった」
 
 それだけではありません。長谷川監督は試合後、肩を落とし気味に引き上げてくる選手たちに、険しい顔や悲しい顔や怒った顔を見せるでもなく、すばらしい笑顔で出迎えていました。
 

悔しいだろう選手たちを笑顔で迎えた長谷川健太監督。 © Ayano MIURA


 ふだんはいかついカミナリオヤジ。でも一年かけて受けた試験の、最後の最後で失敗しちゃったかも……そんな顔で帰ってきた息子を玄関で迎えたときにだけ、とびきりの笑顔で「おかえり」と言って温かく迎える。そんな日本のお父さんのような長谷川監督を見て、私は非常に感動しました。優勝の可能性が極限まで薄くなったこの状況で、なかなかできることではないと思います。
 
 健太さん、一生ついていきます!!!!!!!
 
 少し興奮してしまいましたが、長谷川監督はそのくらいの仕事をしたと思います。
 長谷川監督は、勝ったときほど険しい表情をしていたりします。反対に、負けたときに笑顔を見せることが多い。勝って兜の緒を締めよ。敗れたときにこそ、チームの励みになろうとする。
 すばらしい指揮官ではないでしょうか。
 
 横浜F・マリノスとの得失点差は7。最終節は直接対決で、東京が1点をリードする度に得失点差が2縮まりますので、4点差をつけて勝てば優勝できます。首の皮一枚のそのさらに半分くらいですが、リーグ優勝の可能性は残っています。
 
 吹っ切れた感じの橋本はこう言っていました。
「もう順位は下はないですし、4-0で勝てば優勝、負けても2位というのは決まっているので。こういう想いで戦うのは初めてですけど、もう失うものはないので、最後ぶつかって最終節まで優勝の可能性があるということに幸せを感じて、思い切って戦いたいと思います」
 
 そしてこうも言っていました。
「あまりACLのことは考えていなかった(苦笑)。優勝のことしか考えていなかったので。去年はACLをめざしていて行けなかったのでうれしく思いますけど、優勝の可能性があるかぎり次の試合のことだけ考えてやりたいなと思います」
 
 すごくないですか?
 
 東京がJ1で年間を通して2位以上を確定させたのは初めてのことです。
 堂々、ACLへの出場も決めました。
 それ自体すばらしい。
 でもACLと言われてもぴんと来ていないし、2位に入ったことを殊更(ことさら)うれしく思っている様子もなさそうだし、なんなら苦手の浦和に勝てなかったことが悔しくて、最後、マリノスに勝って優勝することしか考えていない。
 
 いつの間に、そんな勝者のメンタリティを獲得したんでしょう。
 
 急にではないですよね。たぶん、少しずつ芽が吹いて茎が伸びて盛り上がってきていたんだと思います。
 だから長谷川監督はセレモニーでこう叫んだんだと思います。
 
「選手たち、きょうまた浦和に勝てませんでしたけど、えー……一年間、こいつらほんとうによく戦ってくれました!」
 
 キャプテンの東慶悟も。
「まだ諦めていません!
 横浜で新しい歴史をつくって、必ずここに帰ってくると、ぼくは信じています」
 
 得失点差の関係でマリノス相手に4点差をつけて勝つなんて、無理ゲー。
 そう考えて諦めていませんか?
 
 これは2位のチームが1位のチームに4点差をつけて勝てば優勝できるというレギュレーションのプレーオフみたいなものなんですよ。条件つき。ハンディキャップマッチ。
 マリノスにそのくらいのハンデをあげたと考えて、日産スタジアムでは今シーズン最後のゲームを楽しみ、そして長谷川監督が信じた選手たちを後押ししましょう。
 トーキョーワッショイ! プレミアムも諦めずに食らいついていきます。
 

セレモニーでの健太さん。永井謙佑も笑顔。 © Ayano MIURA


 それにしてもミックスゾーンの橋本は、受け答えを繰り返す度にどんどん前向きになっていく様子がおもしろかった。
 
――最後のマリノス戦は条件つきのゲームになったわけですけど、それでもいままでどおりのサッカーをするのか、それとも気持ちのうえで、あるいはプランのうえで変わったところが出てくるのか?
「どうなんですかねぇ。4点差でしたっけ。監督がどう戦うように指示をするかはまだわからないですけど、間違いなく攻撃的に行かないと優勝することはできないと思うので、いままでと同じ戦いではダメなんじゃなかと個人的に思いますけど。思い切って戦いたいと思います」
 
――4点差つけないといけないというのもあるし、永井とディエゴが出られないかもということもあるし、もうどこからでも点を獲らないといけないのでは?
「そうですね。でもマリノス相手に4点獲ってます(今シーズン一巡目の第17節で4-2勝利)し、チームとしてはいけるんじゃないかという雰囲気はあるので。勢いで倒したいなと思います。
(昨年は第17節で5-2でしたが)5-2か。じゃあ、全然ありますね(笑)。マリノス相手には大量得点獲れてるというのを考えれば、全然なくはないと思いますし。バルサ対パリサンジェルマンでしたっけ(6-1、2016-17UCL決勝ラウンド1回戦セカンドレグ)、5点差つけないといけなくて6-1で勝っていたり、世界でもそういうことを起こせるということはJリーグでも起こせるので、なんとかがんばりたいと思います」
 
 三田は前掲の「サッカーはほんとうに何が起こるかわからない。ロッカールームでもチーム全員諦めていないし」のあとに「とは言っても、まずは1点。1点ずつという気持ちでマリノスを倒すという――最初から4点を獲りにいこうと思うとどうしてもうまくいかないと思うから、一個ずつですね」と言っていました。また、渡辺剛は「失点するとだいぶ厳しくなるのはわかっているので、まず失点しないということと。セットプレーもきょうも何回もあったので、そういうところで1点獲れれば流れは変わるかなというのはあるので。そこは自分でできることじゃないかなと思います」と。ただ夢想するのではなく、ちゃんと勝つための道筋も構想しています。可能性はゼロではない。
 
 みんな頼もしいです。もうちょっとアカデミー卒ふたりの言葉を紹介しましょう。
「チャンスあるかぎり。幸せなことに引き分けで(最終節に)チャンスが残ったので。やるだけなので、楽しみです」(渡辺)
「途中で入った選手、(ナ)サンホも(ユ)インスも(田川)亨介もいいプレーをしてくれたと思うし、それがやっぱりチームなので。チーム全員の力で戦うというのがことしの東京を象徴しているというかいいところだと思うので、次もどうなろうとも、元気な11人、18人で戦うだけです」(三田)
 
 戦って、応援して、笑顔で終わりましょう。
 

全然折れていない健太さん。最終節もよろしくお願いします。 © Ayano MIURA


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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

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