柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ピース・ニッポン』 自画自賛ではわが国も中国に負けてはいない!「海外に受けるはずだと日本人だけが勝手に思っている」典型的日本大好きクールジャパン案件 (柳下毅一郎) [無料記事]

公式サイトより

 

ピース・ニッポン

製作・監督・編集 中野裕之
脚本 柴崎明久、中野裕之
撮影 日本を愛する全国の映像作家たち
音楽 岡野弘樹
出演 小泉今日子、東出昌大、渡辺大、及川さきの

 

隣国、中国で『すごいぞ、わが国』とかってタイトルの自国礼賛ドキュメンタリーがヒットしたと聞き、さすが独裁国家は違うわ~とか思ってたわけですが、いやまあ、自画自賛という意味ではわが国だって負けてはいない。日本の美しさを訴え「日本に恋したい」がキャッチフレーズの日本大好きドキュメンタリー『ピース・ニッポン』の登場である。

……ってピースってなんだよ! と思ったらこれ中野裕之監督のピースデリック製作であった。中野監督といえば『SFサムライ・フィクション』や『Red Shadow赤影』でおなじみ世界をピースにしたいピース大好き監督である。「ピースなNINJA」てなんなんだよ! と当時から思っていたものだったが、いまだにピースピース言っている驚き。それにしても日本の素晴らしさを訴えるというのがどっちを向いて言ってるのかさっぱりわからない。日本の美だなんて言ったってこんなものを欧米人が見たがるとも思えず、「海外に受けるはずだと日本人だけが勝手に思っているもの」という典型的クールジャパン案件となっているのである。

 

 

映画は三部構成。それぞれ「日本人の精神」「日本の四季」そして南から北へと日本の美しい風景を追いかけていく「一期一会の旅」となっている。第一部では日本の風景にのっけて日本人の精神史が語られる。天孫降臨で高千穂の峰が紹介されると、続いて日本最古の霊場として出雲大社、そして伊勢神宮。すべてのものに神が宿ると日本人は考えています……と小泉今日子のナレーションで語られていく。そうか大和王朝による出雲の征服そしてヤマトタケルの東征ね……と思うんだが、そういうきな臭いことは決して語られない。あくまでもピースでざっくりぼんやりした語りで、聖徳太子が十七条の憲法を定めたから「和をもって尊しとなす」が日本精神なのである。「日本人はすべてがお互いのおかげで生かされていると考えている」その調子で武士道まで「礼を重んじ、人を思いやる」心の美学になってしまう。ピースな日本精神とはこれなのだ。

画面はひたすら美しい自然風景。驚くほど人間が出てこない。わずかに神社仏閣の参拝客が写り込んでしまっているのと、雪原を着物で歩くモデルのイメージ・カット、そして渡辺大が茶の湯をいただいて「けっこうなお手前で……」というクールジャパンなシーンがあるくらい。だんだん見ているうちにそりゃあ日本もきれいだよね……日本人さえいなければ! という気がしてくるんだから恐ろしい。一応クールジャパン的に必要だとなったのか、スカイツリーの夜景とか渋谷スクランブル交差点とかがアリバイ的に登場するけれど、あまりに浮いている。あくまでも主題は日本の美しい自然なのである。さて、そんな人間嫌いなピース野郎でも、いくつか写さざるを得ない人工物がある。

ひとつは寺社である。これは構成上あたりまえ。さすがに伊勢神宮も法隆寺も平等院鳳凰堂も出てこないでは「日本人の精神」は語れまい。気になるのは城がやたらと映ることである。別に城なんか出さなくても話は十分に語れるんだから、これはピース野郎の趣味としか思えない。ピースは城が好き。そしてもうひとつ、花火が好き。

どうやら人間の営みとして認められるのはこの二つだけであるらしく、やたら花火が登場する。夜景で打ち上げ花火だけなら、まあ美しい風景のひとつだということで済むんだが、「一期一会の旅」パートでなぜか手筒花火の打ち上げが、それもかなり長い時間紹介されるのである。

あとやたらと目につくモチーフが雲。ピースは雲海が好きである。霧が移動するのも好きだ。雲海に城……となれば当然出るのが天空の城こと竹田城址。風景はどこもたしかにきれいではあるのだが、脈絡もなく一定のテンポで順繰りに紹介してゆくだけなんで、いささか退屈だ。撮影ではひたすらドローンが大活躍。あと微速度撮影で夜空と星の動きを見せる。ひたすらこのくりかえしである。日本の美とは紋切り型なのだ。

それにしても、なんでこんなものを作ったのだろう? 中野のブログによれば、「ピース・ニッポン・プロジェクト」として日本の映像記録を残す一大アーカイブを作る予定があるそうで、これはそこに集められた映像のベスト・セレクションなのだそうだ。ピースにアバウトにざっくりと若い世代に日本文化を伝えたいというピース氏だが、4K素材のPR映像以上のものではなかったような。

tags: クールジャパン 中野裕之 及川さきの 小泉今日子 岡野弘樹 日本を愛する全国の映像作家たち 東出昌大 柴崎明久 渡辺大

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