「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

【無料記事】沖縄に関する「デマ」の真相 3〜 TOKYO MX『ニュース女子』が撒き散らす沖縄、在日ヘイトのフェイク・ニュース

地上波で流されたフェイク・ニュース

 番組でこのような差別を受けたことを、どのように感じているか──。
 記者から質問を受けた辛淑玉さんは、険しい表情で正面を見据えたまま、しばらくの間、口を開かなかった。
 無言の時間が過ぎていく。
 10秒、20秒、30秒。それでも辛さんは声を発さない。
 張り詰めた表情に、怒りと苦痛と悲しみが浮かんでいた。
 長い沈黙の後に、ようやく辛さんの口元がマイクに近づいた。
「しっかりと……向き合いたいと思っています」
 いまにも消え入りそうな声なのに、言葉は揮発することなく会見場のなかを流れていく。
「どこまでこの社会を信じることができるか。私自身の闘いだと思っています」
 少しも勇ましくない。人を鼓舞させる言葉でもない。しかし、とぎれとぎれの掠れ声のなかで、決意と覚悟が吹雪いていた。
「ここは私が生きていく場所であり、死んでいく場所だから」
 おそらくは届かないとわかっていながら、それでも何かを伝えたいという、ヒリヒリするような思いが迫ってきた。
 1月27日、衆議院第二議員会館でおこなわれた記者会見。
 この日、東京のローカルテレビ局「東京メトロポリタンテレビジョン」(TOKYO MX)が放送した番組『ニュース女子』が虚偽に満ちた内容で人権を侵害したとして、番組中で揶揄・中傷の対象となった辛さんが、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に人権侵害の申し立てをした。
「徹頭徹尾、何ら事実に基づかない」──。
 申立書にはそう記されていた。
 その内容は後述するが、とにかく同番組は「徹頭徹尾」取材もしていない。
  

 米軍ヘリパッド建設が進む高江(沖縄県東村)を訪ねると、建設反対派の市民が口々に訴えた。
「いくらなんでも”日当デマ”ははひどすぎる」
「本土では金儲けのために反対していると思ってるのかねえ」
 なかには「悲しくて笑い飛ばす気にもなれない」と深刻な表情で話す人もいた。無理もない。金目当てを示唆されただけでなく、この人々は「万一逮捕されても生活に影響が少ない65歳以上のシルバー部隊」、「テロリスト」などと報じられたのだ。
 いずれも沖縄戦や戦後の基地被害を肌身で体験してきた人々である。日焼けした顔には幾重ものしわが刻まれていた。そこには沖縄の苦渋が、やむにやまれぬ思いが詰まっている。
 そのうちのひとりがつぶやいた。
「せめてこれ以上、基地をつくってほしくないという願いで、ここに通っている。それだけのことだ。“シルバー部隊”などという言葉など聞いたことはないし、金ももらっていない。侮辱もいいところですよ」
 そう、番組は悪意と偏見に満ちていた。
「基地建設反対派に日当」、「取材すると襲撃される」──。番組で語られたのは手垢のついたデマばかりである。そもそも真剣に取材する気などなかったのではないか。そう受け取られても仕方のない内容だった。
 たとえば番組冒頭で映し出されるのは名護警察署(名護市)前におけるヘリパッド建設反対派市民グループの抗議活動。「いきなりデモ発見!」と緊迫感あふれるナレーションに続けて、井上和彦氏(軍事ジャーナリスト)は「いました、いました!」とリポートを開始。だが、「反対運動の連中はカメラを向けると襲撃してくる」として撮影中断。
<このままだと危険と判断 ロケ中止>というテロップが大写しされた。
 肝心の「危険」な場面はなにひとつ映っていないばかりか、集まった市民の声すら拾っていない。街中の、しかも警察署前である。この及び腰は何なのか。
 しかし一事が万事、この調子で番組は続く。
 そもそも「高江ヘリパッド問題のいま」と銘打った番組でもありながら、番組でリポーターを務めた井上氏は、肝心の高江にも足を運んでいない。

次のページ

1 2 3
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ

タグマ!サッカーパックのご案内
全35メディアが読み放題