「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中村俊輔が健在の状況で[4-4-2]を採用する意味がない [J10節 柏レイソル戦レビュー](藤井雅彦)

1点のビハインドを追う83分、樋口靖洋監督が2枚目のカードを切る。交代ボードに掲げられた背番号は『18』。代わってピッチに入ったのは前節こそスタメンだったが、この日はベンチスタートになっていた端戸仁だった。

どうにも腑に落ちない采配である。なぜ得点が欲しい場面でチーム得点王をベンチへ下げなければいけないのか。出場続行が難しいアクシデントが起きたわけではなかった。その理由を記者会見の場で問うと、以下のような答えが返ってきた。

「セカンドボールのリアクションが遅くなっていた。例えば藤田が競ったあとで一歩ずつ遅くなったところでキツイなと」

 はたして、これは理由と言えるのだろうか。たしかに疲労が見え隠れする選手はピッチ内にいた。そのうちの一人がマルキーニョスだったことも否定しない。システム変更によって[4-4-2]を試合開始から採用し、柏がビルドアップする際にはマルキーニョスが気を利かせて一列下がり、相手ボランチをケアする動きを見せていた。運動量豊富に動き、マイボール時も厳しいプレッシャーと戦うのだから消耗していて当然だ。依然としてスペシャルなタレントではあるが、37歳という現実は隠しきれない。

それでもピッチに残しておかなければいけない選手だった。今シーズンここまでチームトップの6得点を挙げ、J1通算125得点を誇る選手がいるだけで相手はどれだけ驚異を感じることか。「あの交代で正直ラクになった」とはある柏DFの言葉だ。どんなに疲れていてもマルキーニョス“だけ”はベンチに下げてはいけなかった。これでは自分たちから相手を助けているようなものだ。

残念ながらこの交代はマルキーニョスを大切に扱っていることにはならない。リードして、しかも複数得点差がある場面では60分や70分での交代を検討すべきだろう。それが負傷というリスクを軽減するからだ。しかし、負けている状況ではフル出場してもらわなければ困る。ましてや勝負どころでベンチに下がることなどありえない。これでは自ら負けを容認しているのと同じではないか。前述したようにチームコンセプトに従って守備意識を高めたことが消耗させた理由だとすれば、それはそれで采配ミスでもある。特異なフィニッシャーにさせるべき仕事ではなかった。

すると、そもそもなぜ[4-4-2]にしなければいけなかったという疑問に達する。ゴールシーンは確かに前線のターゲットが増えた効力を発揮していたが、残念ながらマルキーニョスと藤田祥史の関係性に発展は見られなかった。ナビスコカップを含めて複数の試合でコンビを組んでいるにもかかわらず進歩が見られない。これはもはや相性の問題だ。追いかける展開で前線の枚数を増やすための2トップは選択の余地として残しておくべき。しかし、スタートから2トップを採用する道理はない。

特に中村俊輔が健在の状況で[4-4-2]を採用する意味がない。それによって中村からトップ下のポジションを剥奪し、彼はサイドでの守備に忙殺される。「久しぶりに右サイドでプレーしたけど、やっぱりボールをたくさん触ったほうがゲームを動かせる。今日はボールを受けたときにやりきるみたいな感じ」と中村。彼自身は2トップを採用することに前向きな発言をしているが、どのポジションでより輝くかは明白だ。何らかのアクシデントで背番号25が不在であれば一考の価値があるとはいえ、この日のようにプレー可能な状況ではチームにネガティブな影響しか与えない。

はたして、スタートから2トップを採用したことで追いかける場面でのオプションを失ってしまった。さらに最初の交代でセットプレーのターゲットとして得点源の一つとなる富澤清太郎をベンチへ下げ、2枚目は前述したようにチーム得点王を交代させてしまう。有効な交代はパワープレー要員として力を発揮する3枚目のファビオのみ。不必要なシステム変更によって、選手層の薄さを露呈することとなった。

守備面においても2失点ともにボールホルダーにプレッシャーがかかっていない。1失点目はアシストとなるクロスをゴール前に入れたジョルジ・ワグネルへの対応が遅れ、2失点目は起点となる球出しをした増嶋竜也にプレッシャーに行けていない。中町公祐はいずれの場面についても「ボールに行けていない」と指摘。攻撃面での収穫よりも、守備面での機能低下は明らかだった。

次節からはおそらく齋藤学が復帰するだろう。システムも柏対策ともとれた[4-4-2]ではなく従来の[4-2-3-1]に戻る可能性が高い。それでも今後も2トップを採用せざるをえない場面が出てくるはず。中村不在時に[4-2-3-1]を継続するのは難しい。だが、2トップにしてもチームの機能性を維持できない。どうすればチーム力を維持できるのか。

齋藤不在が大きく響いた柏戦とそれに至る4試合勝ちなしという現実は、チームの最初の限界を示している。さらに上を目指すために中断期間に新たな戦力を補強しなければならない。4試合勝ちなしの内訳は2分2敗と厳しいものだが、それでも順位は2位に踏みとどまっている。これは開幕6連勝の貯金がモノを言っているわけで、これを最終的に成果につなげる必要がある。そのために必要なのは指揮官のマネジメント能力向上と同時に使える戦力だ。

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