「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

柏より、レアンドロ・ドミンゲスより、敵は内に潜んでいる [J18節柏戦プレビュー] (藤井雅彦) -1,941文字-

直近のリーグ戦から2週間のブレイクを経て、今シーズンの後半戦が再開する。久しぶりのゲームという感覚に陥ってしまうのは、先日まで行われていたリーグ戦が中2日、あるいは中3日の4連戦で行われ、その前には約1ヵ月と長めの中断期間があったからだろう。いずれも日本代表活動の裏側のオフで、日本サッカーを取り巻く環境は大きく変化しようとしている。

マリノスとて例外ではない。今回は栗原勇蔵だけでなく齋藤学が日の丸を背負い、先日の東アジア杯・オーストラリア戦でドリブルからテクニカルなシュートを決めた。「日本代表の反響はすごい」という本人の言葉を借りるまでもなく、ゴールデンタイムに地上波で生放送される意義は大きい。柿谷曜一朗にはさすがに負けるかもしれないが、齋藤も飛躍的に知名度を上げた。

開幕4-2-3-1_2013 同じことは横浜F・マリノスにも当てはまる。23日のマンチェスター・ユナイテッド戦で日本全国にクラブ名を広めた。ほとんどの視聴者は決勝ゴールを決めた藤田祥史の名前を初めて知ったことだろう。香川真司とマンチェスター・ユナイテッドが目的で、結果的にマリノスを知った。齋藤や栗原もそれに近く、この2週間でクラブを取り巻く機運は間違いなく上昇している。

この勢いをリーグ後半戦、特にこの再開初戦にぶつけたい。勢いだけで長いシーズンを乗り切れないとはいえ、勢いを持って臨むことで得られる幸運もある。勢いがアグレッシブなプレーを呼び込み、積極性が好結果につながる。チームには相変わらずけが人がおらず、病気に苦しんでいた飯倉大樹も復帰した。二度目の開幕で、再びスタートダッシュを決められる態勢は整っている。

懸念材料は指揮官の起用法だ。樋口靖洋監督はこの柏戦で栗原を起用しない決断を下した。28日夜に韓国で行われた韓国戦にフル出場してから、中2日で柏戦を迎えるという強行軍である。その疲労を考慮し、ベンチメンバー18人に入らないことが決定した。代役はマンチェスター・ユナイテッド戦で打点の高いヘディングゴールを決めたファビオになる。左ひざを痛めている中澤佑二のコンディションも上向きだ。栗原を使わないという決断について「それができる状態にある」と樋口監督はチーム力に自信をのぞかせた。

下バナー

ファビオに関して、能力的な心配は不要だろう。身体能力は栗原のそれに勝るとも劣らない。ナビスコカップ準々決勝・鹿島戦では試合の入り方が悪く、ビルドアップでもたついた感があったが、それも時間経過とともに解消された。スピードとリーチの長さを生かして対人勝負を制する。リーチの長さに頼るあまりマンチェスター・ユナイテッド戦の1失点目のような事態も起こりうるが、Jリーグレベルであればそれは稀だ。集中力散漫な状態の栗原と比較したとき、不安は少ない。

4-2-3-1柏 しかしながら、本来は代表選手がこういった状況で欠場すべきではない。所属チームで良いパフォーマンスを見せているから日本代表に選出されるわけで、その選手が代表戦の疲労を理由にJリーグを欠場するのは本末転倒だ。裏返せば、栗原がそこまでの信頼を得ていないということでもある。残念ながらマリノスの日本代表は絶対にチームに必要な立ち位置を得られていない。だからこそ彼は出場を強く訴えるべきだと思うのだが…。

柏戦でファビオが高いパフォーマンスを発揮し、無失点で勝利したらと考えると喜ばしい反面で、とても恐ろしい。柏戦から中2日で戦う湘南ベルマーレ戦で指揮官は再び決断を迫られるからだ。予定通り栗原を起用すればファビオのパフォーマンスの価値が認められなかったことになり、ファビオを起用すると栗原の面目は丸つぶれだ。かといってチームとしては負けられない大事な試合である。つまり、どのような結果になっても齟齬が生じてしまう。その齟齬を招いたのは、ほかならぬ樋口監督自身である。

柏との相性の悪さを嘆くよりも、問題が内包されていることが心配でならない。こういった状態で迎えた試合を、仮に落とすと、大きな痛手として今後に響く可能性がある。柏より、レアンドロ・ドミンゲスより、敵は内に潜んでいる。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ