「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

これはサッカーの神が与えた試練ではなく、自分たちで招いたミステイク [天皇杯4回戦 長野戦レビュー] (藤井雅彦) -1,744文字-

まずは対戦相手のAC長野パルセイロを褒めなければならないだろう。「長野さんがとても素晴らしいサッカーを展開されて、かなり苦しめられたというのが正直な感想」(樋口靖洋監督)。チーム全体が見事に意思統一されており、規律を乱す選手は見当たらない。最初から最後まで全力を出せるチームで、それこそが強さの源だろう。個々を切り取れば、もちろんマリノスや他のJ1チームには及ばない。しかし、それを自覚した上で勝利する術を模索している。もちろんJ1首位と戦える喜びやモチベーションの高さもあっただろうが、それにしてもだいぶ苦しめられた。

勝つには勝った。しかし、かなり肝を冷やしたことも事実。序盤から圧倒的にボールを支配し、高い位置に侵入した熊谷アンドリューのパスから佐藤優平がシュート性の速いボールをゴール前に送ると、戻りながらの対応を強いられたDFに当たってゴールネットを揺らす。オウンゴールのようにも見えたが、記録は佐藤のゴール。もちろん大部分が佐藤のゴールと言って間違いではないだろう。格下相手に先制に成功したのだから、試合を圧倒的に有利できるのは想像に難くない。

3-4-2-1長野 だが、実際は違った。中盤でのボールロストからリズムを崩し、自陣ゴール前で不要なファウルを与える。そうして招いたFKのピンチで、壁を作った選手が隙を見せ、まさかの同点ゴールを喫する。オレンジ色のパルセイロサポーターはおおいに沸いた。マリノスにとってはまさかの失点で「自分たちでゲームを難しくしてしまった」(樋口監督)。

その結果、59分から胆のう炎で離脱していた中村俊輔を投入することに。本筋からやや逸れるが中村について「展開がおもわしくない場合は後半15分くらいからと決めていた」と樋口監督は振り返る。この時点で、仮に延長戦に突入した場合は30分の追加となるため、合計して約60分のプレー時間となる。30分以上、60分未満。これがこの日の中村に与えられたプレータイムで、3日後にジュビロ磐田戦を控える35歳のギリギリだった。

中村のコンディションを抜きにしても、やはり90分間で仕留めるべき相手だったはず。ラクなゲームにならず、失点したとしても、アディショナルタイムを含めた90分間で上回らなければいけなかった。延長戦にもつれたことでフィジカル的な負担が増し、メンタル的にも追い詰められた。幸いにも延長前半に藤田祥史が決めてくれたことで優位に立てたが、勝ち越してからも複数のピンチを迎えた。そのたびに肝を冷やしたのは筆者だけではないはずだ。

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4-2-3-1_中町トップ下 試合後の選手たちの表情が脳裏に焼きついている。相手は2カテゴリー下の格下だというのに、勝利したことに安堵の表情を浮かべていた。余裕は一切なく、栗原勇蔵は苦笑いを浮かべながら「最悪の結果だけはまぬがれたけど、その次に悪い結果だったかもしれない」と吐き捨てた。延長戦にもつれた末に負けたときのショックは推し量れないが、延長戦突入だけでも十分に負担がかかっている。心のどこかで格下相手に負けるはずがないと思っているからこそ、予想外の苦戦で疲れが倍増する。

勝つには勝った。ベスト8に駒を進め、リーグ戦と天皇杯を合わせた2冠も視野に入ってきた。ただし、それと引き換えに抜けきらないであろう疲労を抱えてしまった。パルセイロ戦から3日後の14時に、アウェイの地で磐田戦に臨む。試合直後、そして試合翌日の選手たちは一様に足取りが重く、疲労困ぱいの様子だったことが気がかりだ。

これはサッカーの神が与えた試練ではなく、自分たちで招いたミステイクである。

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