「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

この日の主役はダブルボランチの二人だった [J21節川崎戦レビュー] 藤井雅彦 -1,868文字-

 

ハイテンションかつ迫りくる危機感がナイスプレーを呼び込む、素晴らしいゲームだった。

それを象徴する場面をひとつ紹介したい。67分、自陣での中澤佑二から中町公祐へのパスがわずかにずれ、相手ボールとなる。その流れで放たれたレナトのミドルシュートはバーをかすめて胸を撫で下ろしたわけだが、その後の光景が良かった。中澤佑二は中町に激怒し、中町も簡単には引き下がらない。ミスを責め合うわけではなく、各々がプライドを持って仕事しているからこその事象だろう。やはりマリノスはこうでなければいけない。仲良し集団ではなく、職人気質な選手が集まってこそ、本当のプロチームなのだ。

4-3-2-1_ラフィーニャ たくさんの選手の名前を出したいが、次に挙げたいのは中村俊輔だ。序盤こそボールホルダーのチェックに走れない場面が散見されたが、息遣いに慣れてからは率先して守備に走った。ラフィーニャとともにコースを限定し、ダブルボランチや両CBに狙い目を提供したのは彼の戦術眼あってこそ。また、開始早々に得たPKをラフィーニャに譲ったのも実に彼らしい。「取るべき人が取れば勢いが出る」と常日頃から発している言葉を体現してみせた。テクニカルやプレーや精度の高いキックがなかったとしても、ピッチにいる価値があることを示した。

先制点を決めたラフィーニャはこの試合でもチームをけん引してくれた。PKを決めたことでここ3試合で4ゴールと数字も出ているが、それ以上に彼の存在が相手に脅威を与えている。とりわけルーズボールの処理や混戦から抜け出すプレーが上手い。登里を退場に追いやったシーンも相手数人に囲まれる混戦から前を向き、さらにスピードに乗ったドリブルで前進した。ゴール前だけの選手ではないところが彼の存在感につながっている。

そして、この日の主役はダブルボランチの二人だった。序盤、存在感を見せたのは小椋祥平だった。7分の決定機は小椋が中村憲剛にプレッシャーをかけ、それに続いて齋藤学も左サイドの高い位置でコースを切る。相手が中央へ戻したところをすかさず中村俊輔が奪い、そこからのラストパスをシュートにつなげたのは最初にプレスに走った小椋だった。シュートこそ相手GKのセーブに阻まれたが、高い位置での守備が機能していることを印象付けたシーンと言える。

 

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相方の中町公祐の出来も素晴らしかった。序盤は小椋を前へ押し出し、自身はバイタルエリアに残ることでセカンドボールを次々と回収。冷静なさばきで味方へとつなぎ、クールに振舞った。試合途中からは小椋のプレーを見て血が騒いだのか前へと出る機会が増え、何度もボールを刈り取った。インターセプトから相手と入れ替わり、そのまま速攻につなげる。91分に藤田祥史が相手GKにチェイシングし、それを拾ってからのループシュートは枠外へ。これを決めていれば、おそらく彼のための日になっていただろう。

川崎3-4-3 多くの選手を個人名で挙げたように、チームとして統制がとれているだけでなく、個々が高いパフォーマンスを見せた。最初から最後までハイテンションのまま試合が進み、中だるみする時間が少なかった。前半のうちに2対0でリードしたせいか、後半に入ってややトーンダウンした前節の徳島ヴォルティス戦とはその点が明らかに違う。試合運びの拙さという課題は依然として存在するものの、それを上回る危機感や緊張感が好プレーの数々を生んだ。

それだけに、試合後にクラブから発表されたピッチ外での一件が残念でならない。素晴らしいゲームと会心の勝利に水を差す行為で、愚行と言わざるをえない。嘉悦朗社長は「許しがたい」と話し、即座に無期限入場禁止という厳しい処分を下した。クラブ側が迅速な対応を行ったことでJリーグからの処分は考慮されるかもしれないが、横浜F・マリノスにとっての汚点が消えるわけではない。

最高の勝利に酔いしれるとともに、我々は今後の在り方を考えさせられる日となった。

 

 

 

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