「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中村俊輔をトップ下に戻す回帰が、どう出るか [2nd5節清水戦プレビュー] 藤井雅彦 -2,163文字-

 

直近のリーグ戦8試合勝ちなしで、2ndステージに入ってからは4試合勝ちなしとマリノスは苦しい状況にある。その4試合は中村俊輔をボランチに配し、ポゼッション率を高めることに重きを置いた。すると1stステージで4連勝を飾っていた際の縦の速い攻撃は影を潜め、反対に遅攻一辺倒になった。別項でも触れるとおり、トップ下の三門雄大はまったく持ち味を出せず、ただ2列目にいるだけだった。

4-3-2-1_2015 エリク・モンバエルツ監督が探す次なるバランスに注目が集まり、それは清水エスパルス戦前日の練習で明らかになった。トップ下に入ったのは中村俊輔で、ダブルボランチに兵藤慎剛と三門雄大、1トップにはアデミウソンが収まった。中村は1stステージ最終節のヴィッセル神戸戦で途中出場ながらトップ下でプレーしたが、先発では今季初となる。

とはいえ1月の沖縄キャンプと2月の宮崎キャンプ途中まで、中村はトップ下として不動の地位を築いていた。樋口体制と同じように中村を軸に据えたチーム作りを進めることに、誰も疑念を抱かなかった。それが左足首の負傷と、それに伴う手術によって長期離脱を余儀なくされ、その間にトップ下として台頭したのが喜田拓也であり、三門だった。彼ら二人が2列目中央に入ると、マリノスは攻守の切り替えと縦に速いオフェンスを特徴に、一時的に躍動した。

ただ、その後は相手に研究されると同時に、後方からのビルドアップという課題が浮き彫りになり、たちまち勢いを失った。そこで冒頭で述べたとおり中村をボランチに置いてボール回しを安定させる施策に打って出たわけだが、すると今度は速い攻撃が消えた。あちらが立てばこちらが立たず。マリノスはいつの間にか難解な問題を抱えているように見えた。

そこで中村をトップ下に戻す回帰が、どう出るか。注目は背番号10のプレーエリアで、ボランチのように下がって配給役を務めるだけでは、正直言ってつまらない。モンバエルツ監督はこう期待を口にする。

 

下バナー

 

「彼はあのポジションから下がってきてはいけない。10番のポジションが低い位置に来るのは好ましくなく、より高い位置でチームの攻撃をスピードアップさせてほしい」

清水3-5-2 どうやら指揮官は高い位置でのプレーを望んでいるようだ。過去の傾向だと、この1試合限定ならば中村は我慢できるが、2試合、3試合と重ねていくうちにボールに触れられないフラストレーションが溜まり、プレーエリアを下げてくる。周囲との関係性の問題もあるが、中村自身がどのプレーを選ぶかが肝要だ。安易に下がってきては中盤で交通渋滞が起きるだけである。

それと同時にアデミウソンには、よりゴール前でのプレーを求めたい。中村というコントロールタワー兼パサーがいるのだから、アデミウソンまで下がってきたら相手ゴール前は無人になってしまう。齋藤学や藤本淳吾の動きも重要だが、まずはアデミウソン自身がストライカーの役割を果たすべきだ。それも中村がいかに高い位置を取れるかにかかっている。

指揮官が中村に求め、チームをどの方向に導きたいのか。いまはまだ不透明な部分が多くあるのがたしかだろう。その中でも中村自身はトップ下でのプレーを熱望し、いつか本来の居場所に戻るためにボランチとして与えられた役割を黙々とこなしていた。だから、ひとまずは中村がどんなプレーを魅せてくれるか、楽しみにしようではないか。その先にフランス人指揮官だけが描けている完成形があるのかもしれない。

 

【この試合のキーマン】
MF 6 三門 雄大

最大の注目はトップ下・中村俊輔だが、その中村と入れ替わるように本職のボランチに戻る背番号6も密かに注目したい。
ここ数試合はトップ下の選手として持ち味を出せなかった。これはエリク・モンバエルツ監督のコメントをご覧いただけばわかるように三門個人の問題ではなく、中村加入後のチームスタイルの変化と捉えるべきだろう。端的に言えば、三門が走ってもボールは出てこなかった。そもそも縦方向にボールを出す意識が稀薄過ぎた。
それでは彼をトップ下に置いている意味がない。おそらく喜田拓也がトップ下に入っても同じ現象が起きる。中村をボランチに配してポゼッション率を上げるのならば、トップ下には遅攻に適した選手が必要だ。例えばアデミウソンをトップ下に移し、1トップにラフィーニャか伊藤翔を入れれば違った展開になっていただろう。
しかし、指揮官の選択はトップ下・中村への回帰だった。それをフォローするのが三門と兵藤慎剛の役目で、三門は本来の思い切りの良いプレーを取り戻せるか。3列目がいかに縦パスを出し、前の選手を追い越していくかで、マリノスのオフェンス力は大きく変わる。本人も「嬉しいですよ」と本音をのぞかせたボランチ復帰で、チームとともに再び息を吹き返すか。

 

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ