宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜJリーグは世界と比べて「イケてない」のか? 村井満チェアマンによるメディアブリーフィングより<2/2>

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■パススピードの「1mの差」がもたらすもの

 パブレポートの17ページにはCL(チャンピオンズリーグ)でのレアル・マドリーの平均スタッツと、Jリーグの今シーズンの捕捉できたものの平均スタッツとの比較です。見れば見るほど頭が痛くなってまいります。パスの成功率はレアル・マドリーが82%で、Jは77%でした。そしてパスのスピードが、ショートパスで言うと秒速8.29mがJなんですが、レアルはそれが1m以上長くなって9.45、ミドルパスもそうですし、ロングパスもそう。ショート、ミドル、ロング、いずれも秒速で1m違っています。

 それから、リオ五輪を見ていても感じましたが、たとえばブラジルはボールを持つと前にドリブルで切り込んでいきます。日本はどうかというと、パスの出し先を探し始めます。ここにドリブルの回数が書かれてありますが、レアルはゲーム中20.7回、前にドリブルで切り込んでいる。でもJリーグは13回。ボール奪ってからのシュート数もJリーグは少ないですね。6.67に対して5.71。ペナルティエリア内でのシュート数も、7に対して9。

 このほかにも、ボールを奪ってからゴールまでのタイムであったり、カウンターのスピードであったり、いろんなデータがあるんですが、ほぼすべての指標で日本はこれだけ具体的に差をつけられています。唯一、自陣でのタックルの回数は上回っているんですが、自陣でのファウルの数は日本の方が倍近く多い。アクチュアルプレイングタイムは、レアルが58分に対して、日本56分ということです。

 実は「こんなに世界との差があります」と言っても何の意味もなくて、この差が急に埋まるという話でもない。それでも、パススピードが1m違う原因をこれから掘っていく必要がある。例えば、トラップを受ける側の技術が高くなければ、速いパスは出せませんし、人が混んでいるところにパスを出してもダメですよね。良いポジショニング取りをするための先を読むプレーができる選手がいなければ、速いパスは出せませんし、出す側のインパクトの技術も高くなければいけない。

(ここでスタッフが赤と青のビニールテープを用意)

 赤い方がJリーグで、青い方がレアルだと思って下さい。Jのショートパススピードが8.29m、ちょうどこの長さですね。レアルのほうが9.45mですが、これだけの差がフィールド上で起こるということです。くどいようですけど、先にDFが触ればクリアになりますし、先にFWが触れればシュートにつながるわけです。ボール1個分、あるいは数センチ先に触れるかどうかがサッカーの勝負の本質です。そういうところが、ぬるっとしているのがJリーグ。これをどうしたら変えられるのか、ということをアプローチしていきたいと思います。

 ここに書かれてあるすべて結果指標から、その裏側にどういう原因があるのか、その原因まで辿りつかないと、世界とのギャップを埋める道筋を付けることができません。今は第1フェイズですから、この世界とのギャップを認識するところから始まって、これからクラブの強化担当の皆さん、あるいは世界のフットボールについて見識のある皆さんと議論を重ねていき、数値の裏側にある本質的な背景をしっかりとグリップしたいと思っています。その上で定期的に毎節、例えばミドルパスのスピードが日本にとって重視しなければならないのであれば、1年間トラックし続けて、良いチームと悪いチームを比較しながら、メディアの皆さんに開示したいと思っています。

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