宇都宮徹壱ウェブマガジン

「DAZN元年」と向き合うための第一歩 大武ユキ(漫画家)&ニート鈴木(ライター)実験座談会<1/2>

 以前より予告していたとおり、今回はDAZN(ダ・ゾーン)を取り上げることにしたい。今シーズンからライブストリーミングサービスで、明治安田生命J1・J2・J3リーグを開始するDAZN。周知のとおり、これまで10シーズンにわたりJリーグを中継していたスカパー!が撤退したことにより、われわれ日本のサッカーファンは否応無しにDAZNと向き合うこととなる。とはいえ、単に「放送チャンネルが変わる」という話ではない。「放送」から「通信」へと、メディアそのものが変わるため、中継映像を視聴するには従来とまったく違った対応や環境を求められることになるのだ。

 そこで今回は、実際にDAZNに入会してアクセスし、さらに中継映像をTVモニターに映し出すところまでを実験してみる、という企画を思い立った。ご協力いただいたのは、『フットボールネーション』などの作品でお馴染み、漫画家の大武ユキさん。そしてDAZNに関する情報を早くから発信していた、ライターのニート鈴木さん。当初の企画趣旨は、ニートさんのレクチャーを受けながら大武さんにDAZNを体験していただき、その使い勝手や問題点を検証する、というものであった(ちなみにTOPの写真に映っている猫は、大武さんが飼っているトトくんである)。

 ところが実際にやってみると、入会する時点で、さまざまなハードルがあり、それらをクリアするためには一定以上のITスキルやネット環境が必要であることが判明した。ニートさんも大武さんも、私から見ればかなりITスキルは高いし、今回お借りした大武さんの仕事場は抜群にネット環境が良かった。にもかかわらず、DAZNの映像をモニターで映し出すまで、思いのほか戸惑うことがしばしば。その悪戦苦闘ぶりを、コンパクトに再現したのが本稿である。

 実は昨年12月、村井満Jリーグチェアマンのメディアブリーフィングが行われた際に、DAZNを視聴するためのハードルの高さをどれだけ認識しているのか、チェアマンに問うてみたことがある。その時の回答を要約すると「私のオフィスでは、問題なくTVモニターで見ることができています。CS放送の時もアンテナが必要だったように、ある程度のハードルをクリアすれば、問題なく視聴できるのではないでしょうか」というものであった。

 おそらく村井チェアマンは、「ちゃんとわかっている人」にセッティングしてもらってDAZNを視聴しているだろう。少なくとも、ご自身で入会して、ご自身のタブレットでアクセスして、なおかつご自身でモニターにミラーリングしていたなら、このようなお気楽な答えにはならなかったはずだ。チェアマンには、上記のプロセスを独力で追体験していただくことを強くお勧めする(そうすれば、事が決して容易ではないことを認識できるはずだ)。

 もしもJリーグが、すべてをDAZNに任せきりにしたまま開幕を迎えたら、あちこちで混乱が起こるだろう。そして「IT弱者」となってしまった人々は、TV観戦を諦めて、最悪の場合Jリーグそのものからも離れてしまうかもしれない──。そんな危惧を私は捨てきれずにいる。「2100億円」で浮かれてばかりいられない、今そこにある危機。本稿が、Jリーグの「DAZN元年」をリアルに考える契機となれば幸いである。(収録:2016年11月30日@神奈川)

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■放送ではなく「通信」ゆえのリスク

――今日はよろしくお願いします。いよいよ2017年から「DAZN元年」となります。Jリーグ界隈からは「10年間で2100億円!」といった景気の良い話ばかりが聞こえて久しい今日このごろ。しかしわれわれサッカー消費者が気になるのは、「DAZNが本当に、われわれの観戦環境をより良くしてくれるのか?」ということだと思います。そこで今日は、すでにDAZNに契約しているニートさん、そしてサッカー中継のヘビーユーザーである大武さんと共に、その使い勝手を検証してみたいと思います。まずはニートさん、「DAZNとはどんなメディアなのか」ざっくりと説明していただけますでしょうか?

鈴木 一言で言えば、国内外のいろんなサッカーが見られる、ということです。欧州だと、たとえばイングランドの2部(チャンピオンシップ)とかFAカップとかリーグカップとか。南米でもブラジル全国リーグやアルゼンチンリーグとかコパ・スダメリカーナとかも見られます。ただし、もちろん全部が見られるわけでなくて、DAZNがチョイスした試合なんですけどね。フランスのリーグアンだったら、酒井宏樹のいるマルセイユ中心とか、そんな感じですね。

――大武さんは、DAZNがJリーグを独占中継することになったことを、いちファンとしてどう受け止めていますか?

大武 とりあえずネットだけになるのは困るなと思いましたね。特に録画ができなくなると、仕事の資料として使えなくなってしまうので。あと、大きい画面で見られなくなるのも厳しい。なんのためにプラズマの55インチを買ったんだって話ですよ(笑)。

鈴木 DAZNの懸念事項って、大武さんが今おっしゃったことに集約されると思うんです。特に録画に関しては、遡って視聴できるのは2週間くらいが限度なんです。もうひとつは通信である以上、「落ちる」リスクを常にはらんでいるということ。放送の場合、放送事故ってほとんどないわけですけど、通信の場合、送る側のシステム障害だったり、受ける側の機器のトラブルであったり、原因はさまざまですけど、いきなり視聴できなくなるリスクが常につきまとうんですよね。

大武 この間、レスターの(プレミアリーグ)優勝が決まる試合の時、めっちゃ落ちてたよね。

鈴木 大問題になりましたね。あれはスカパー!オンデマンドでしたが、WOWOWでも起きているんですよ。DAZNに限らず、どこでも起こり得る通信のリスクですよね。もちろん受け手の側に原因がある場合もあって、機器のトラブルとかWi-Fiの問題とか。僕もそれで、映像が途切れる経験をけっこうしています。

――料金についてはどうでしょう? DAZNは月額が定額で1750円+税ですが。

大武 安いですよね。私は今、スカパー!とWOWOWと両方入っているんですよ。しかもスカパー!は、海外リーグとJ1・J2込みだから、両方で8464円払っているのかな。

――ただ、当初DAZN側が言っていた「モーニングでもランチでもなく、ブランチ(くらいの価格)になる」という価格帯からは、ちょっとかけ離れていますよね。ちなみにスポナビライブは、ソフトバンクのユーザーは500円+税でしたが、入っていない人だと?

鈴木 3000円+税なんですが、今はキャンペーン中で1500円+税。

大武 今のところ来年(17年)の3月までみたいですけど、そのまま1500円のまま行ってしまいそうな気もしますね。

鈴木 それってソフトバンクの商法で、いつもやっていることなんですよね(苦笑)。携帯電話も2年契約したら、特別割引が消えますみたいな感じにして、ユーザーが忘れたころにいろんなキャンペーンをやるという。

大武 だから私も、スポナビライブは最近まで迷っていたんだけど、好きなチェルシーの試合を見たくて登録しましたよ。とりあえず1500円のうちは契約しておこうかなと思っています。

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